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水中では動きが鈍る 2-3

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 無線のやり取りが途切れた。
 静寂。
 行き交う車にライトが灯り始める。
 人通りも少ないのかまだ通行人は下校中の中学生一人だけである。
 カラスの鳴き声。
 出てきた。交番の引き戸が開くと警官の姿。軽く中にいるもう一人の警官に挨拶をしてドアを閉めた。制服から着替えているようで長袖のシャツとジーンズ。彼はパトカーの脇に止められた乗用車に乗り込む。
 車はS市方面へ走りだした。
 熊田がエンジンを掛け追走する。
 運良く赤信号で車の流れが止まっていた。
 シビックは悠々と車線に合流。
「私達が一番近くにつけているようですね。後ろの車が別班の車両ですよ」種田がサイドミラーで後方を確信して言う。鈴木と相田がやっと窮屈な体勢から解放されて後ろを振り返ると、なにやら後続車が身振り手振りでこっちへ来い、と招き入れる仕草を見せている。
「大丈夫ですか?後で怒られるのは嫌ですよ僕は」鈴木が心配そうに眉を寄せて誰ともなく問いかける。
「この車に乗っている時点で共犯。言い逃れはできない」相田が後方から目をそらして前方を注視する。対象車は車一台を挟んで快適な速度を保ち走る。
「相田さんたちはいいですけど僕来月昇進試験があるんです、これが落とされる材料になるかも」
「お前そんなの受けるのか?昇進がしたいんだったら、警察なんかやめて官僚にでもなればいいんだ」相田は人差し指を鈴木の眼前に浮かべてリズムを刻むように宙空を叩いていた。
「官僚がすべて出世のために働いているわけではないと思いますよ」この車での言い争いはたいてい、熊田と種田が主役であるのに、今日は特別乗車の鈴木と相田がその役を買って出てくれたようだ。
 道路沿いの左手は用水路を挟んで倉庫が立ち並び、大型トラックが駐車されている。フォークリフトが工場内の電灯に照らされて特有の速度で走行。遠くから見るとおもちゃにも見える。
「あの警官の自宅はどのあたりだ?」熊田がハンドルを軽く握りなおして種田に尋ねる。
 角張ったバッグから書類を取り出すと数枚めくって応えた。「T駅周辺です、住所からは……」種田は携帯を開き住所を打ちこむと現在地までのルートが画面に映し出された。「北口側に一旦出ないとならないので、T駅の前に左折しますね」
「もう一人の模倣犯でしたっけ、その警官は調べないんですか?」相田がタバコを咥えて言う。
「あいつはもう何もしないだろうな。チャンスが訪れて犯してしまっただけだから、自ら計画して実行するようなタイプではない」
「それでは、一件目の事件発生からエンジンオイルを服の下に忍ばせていたって言うんですか?それこそ計画的です」
「黙って見張り番を続けているのとチャンスを伺いながら待つのとでは、疲労の度合いがまったく異なる。計画なんてしてない、他力本願でただの暇な見張りがわくわくを兼ね備えた遊びに成り代わるのならと選択したのさ」