コンテナガレージ

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今日からよろしくどうぞ、不束者ですが4-5

「おっしゃるとおりです」林は速やかに種田の明晰さに、興味を示したようだ。ある種の人物たちが見せる好機のまなざし。「お二人は応援ということでしたが、事情は伝わっているのでしょうか。改めて私に事情を聞かれたので」

「あくまでも予測です。それに」種田は平常な態度で応える。「複数回、事情を話すと得られる関係者、当事者たちの情報の整理を私は求めた。人は事実を見てはいるが、はっきりと言葉に変換することは避けてしまう」

 またしても興味ありげな視線、林はソファに背をつけた。私は絵画にでもなった気分。自画像を他人がまじまじと目を凝らして注視して欲しくはないのに。

 腕を高い位置で組む鈴木は、大げさに首をかしげた。「あの、つかぬことを窺いますが、そのう、商品の発表に関しては定評のある企業だと、僕は思って、つまり裏手の搬出の目を逸らすことは簡単に思いつきますよね、なにか実行に移せない理由でもあるんでしょうか」素朴な疑問こそ、答えに窮する。鈴木の抽象的な視点は上司の熊田も一目を置く。しかし、本人にその自覚はない。あれば、そもそもそういった視点を所有することは難しい、種田は林の回答に注目した。

「要請で訪れたのはまんざら嘘ではないようですね。はい、表通りのお客様の解散までのアイディアは浮かびました、ただ建物は周囲を高いビルで囲われ現在も上から多数のレンズに狙われております。幸い、死体は社員が発見し、私どもが把握している限りにおいて現在まで、死体の写真が世間に公開されてはいません。要するにですね……」そこを種田が遮る。

「工作を講じた姿を後に公開される危険を危惧している」

「ええ、代弁していだだいたとおりです」林はハンカチを取り出す。ジーンズにTシャツという出で立ちに不釣合いなアイテム、種田にはそう思えた。

「ですが、現場の検分も証拠の採取には、悠長に夕方まで待つというわけにはいきません」鈴木は言う。「死体の腐敗も気にかけなくてはならない」

「どうでしょうか、警察の方々に屋上を見下ろす周囲、八方のビルに退去命令などを出してもらうというは?避難訓練の一貫をでっち上げるとか」

「こちらは死体の移動と現場の検証が仕事。そちらの事情まで考慮に上げることは、譲歩はしますが、過度な要求は受け入れられません」種田はきっぱりと申し出を断る。海外の生活が長い、緊急性に対する緊張感の喪失が彼に伺える。いや、もしかするとこれが支社長の役職に納まるべき性質なのかもしれない。ストレス体勢に強い、つまりある意味で鈍感さがときに勝る。