コンテナガレージ

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今日からよろしくどうぞ、不束者ですが5-4

「保管された場所から持ち出されて、勝手に使用されたとおっしゃる?」と、鈴木。
「はい、苦しい言い訳に聞こえるかもわかりませんが、これが事実です。私はその、正直に申し出れば、疑いのほうが強まるように、思ってですね……」
「社長は修繕を頼んだ業者から届くバルーンを機体に設置して、それから私と一緒に帰りました。飛行船は一人では絶対に飛ばせない、最低でも二人、地上で待つ役割の人間が必要なんですから、一人でなんて、そんな無謀な行為は死に直接結びつく、いいですかあ、私たちは人の命を預かるのですよ、スカイダイビングとかの連中と一緒にしないでいただきたい」おっとりとした舞先の豹変した剣幕は鎖につながれた番犬を思い出させた。眠りを妨げられ、見知らぬ訪問者がテリトリーを荒らす行為への反射的な攻撃性が発揮されたかのようだった、二人の関係性が不意に種田は気になった。
「まあまあ、落ち着きましょう」鈴木が得意の微笑を浮かべて、結論を急いで決め付ける人物ではないことをアピールした。「無許可飛行を咎めているのではありませんから、その点は心配しなくても」
「では一体、訊きたいことというのは?私はってきりですね、営業許可の取り消しかなにかとばっかりに」舞先は深くため息をつき、首を細かく振る飛田に腕を引かれる。目頭に熱を持った彼女は袖口で目元を拭った、飛田の隣にそっと座る。
「管理の不徹底による何らかの罰則は受けるかもしれません」種田ははっきりと名言をした、これがゆるぎない事実であるからだ。
「種田、お前、それさあ、今言うかぁ?」嗜めるように鈴木に言われた。飛田はそっと舞先にハンカチを手渡す、淡いブルーだった。
「いえ、いいんです。半日こうして黙っていた私に非があります。正直に今朝気付いたときに伝えるべきでした。申し訳ありませんです」
「被害の状況は報告されていないだけかもしれない。営業の停止、免許の剥奪等も視野に入れた対策を採られるのが肝要かと思います」
「……はい、真摯に、受け止めます」
「社長……」舞先の手が飛田の手を握る、彼女はうな垂れた。随分老けたように見えた、光の錯覚か……。太陽が雲に入りったらしい、種田たちの背後の窓に差し込む光が弱まった。
 二人の呼吸が落ち着いた頃を見計らい、飛田の案内で飛行船の格納庫へ二人は移動した。プレハブの裏にジープが止まっていたらしく、表側からは確認できなかった。