コンテナガレージ

サブスク・日常・小説の情報を発信

お手を拝借、今日はどちらに赴きましょうか?2-3

 顔を上げる、呆れた真下がコーヒーを啜っていた。どのくらい、……数分は黙りこくっていただろう、と稗田が反省を舌で表した。「ごめん、ついうっかり考え事を」

「慣れたものよ。何年も見続けている」

「ブルー・ウィステリアに仕事終わり、事情を聞きに行こうと思う」

「店側が、あなたに教えるとは思えない」

「探りを入れるだけ、名刺入れを落としたとかとりつくろってね、それから、困っていると物語性も加えて、もしみつけらたら連絡して欲しいってね」稗田は顔を近づける、テーブルの中央で言った。「相手の反応を見るの。私がお客をどれだけ見てきたと思うの、嘘ぐらい見破れる。相手の反応は端々、本人の無意識な箇所に出現するんだから」

「得意げに言うけど、あなたが事実を確かめに行くことを私が許したら、あなたとの談笑はこれで最後の昼食になるかもしれないわ」

「大げさな」稗田は宙空を掴む右手の仕草で笑う。しかし、真下は真剣なまなざしを向け続けたので、ちょっとひるんでしまった。空想、想像の話だ、消されるなんて、ノートの文字じゃあるまいし、だって非現実に思えて、実感はまるで湧かないもの、と彼女は真下の忠告を絡めとって、ぽいっと捨ててしまった。

 そのとき稗田の携帯が手帳を思わせるサイズの財布のなかで振動した。テーブルを揺らす振動で気がつく。

「はい。は?ええっと、近くですが。ええっつ!すぐにはい、真下さんですか、たぶん携帯はつながらないと思いますよ、彼女電源を切ってますから。わかりました、もどります。はい」

「誰?」

「本社の人。店が急に混み出したって。何でも、店外に行列ができているらしい」

「私も戻るわ」

「だめ」稗田は手で制する。「きっちり休んでもらわないと、私が疲れたときに代わってもらえないじゃない」

 真下を置いて、急ぎ稗田は喫茶店を後に、勤務先に引き返した。