コンテナガレージ

サブスク・日常・小説の情報を発信

お手を拝借、今日はどちらに赴きましょうか?3-1

 目が見えない、というのはもしかすると……、金光俊樹派はコックコートのままで手だけは綺麗に汚れを落として、S駅内の喫茶店を訪れた。

 穏やかな風の流れが駅前の風景に見て取れる、金光は窓際の席に腰を下ろした。コーヒーを注文するが、やっぱりと、訂正、ウエイターにオレンジジュースを頼んだ。滞在は数分が限界、僕が主催する午後の調理講習が一時から始まる。早足で歩いて五分はかかった、往復で十分の計算。現在時刻から、彼は腕時計を見る、滞在時間は五分がいいところ。

「それでなに?急に呼び出して。できれば、メールにして欲しかった」

 金光は一気に水を含む。氷が冷たく、歯に染みる。

 微妙にずれた顔を彼女は向ける。笑った顔を見たのは、目が見えていたときも思い出せないほど時間を遡る必要がある、彼女の感情の幅は隣り合う笹よりも狭い。それがよくもあった。あまり干渉されなく、しかも男女の関係でいられることは、自分にとっては何より魅力に思えた。不謹慎でずるがしこい、異性からの意見は想像がつく。それでも、まあ、互いの関係性自体が自らの欲を補うための対象なのだ、自分は理解して行動を起こしてるだけでも大目に見てもらいたい。まるで誰かに監視されてるような言い方、彼は常に監視を意識に上げる。昔からの癖だった。たまに人ごみではその傾向は特に顕著、人はあまり自分のこと見ていないというが、しかし、人は案外見ているものだ。意識に上げることをすんなり諦めた機能が発達したまでのことと、彼は思っている。

 彼女は黙りこくって、コーヒーを飲み続ける。一口、二口、口に運ぶ間隔が狭まっているようだ。まるで、時限爆弾か、いいやカウントダウン。決意までの五秒前。四、三、二、一、ゼロ。ドーン。ゼロを入れてるカウントは六になる。こういった細かいことが気になる性格なのだ、仕方ない、金光は聞いて欲しそうな彼女に呼びかけた。