コンテナガレージ

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不躾だった私を、どうか許してくださいませ5-3

 数分で使用可能な状態に、画面の藤の花が浮かび上がった。言葉で彼女に説明をする。

 なるほど、金光は思う。視覚情報を改めて言葉に変換することは料理に似ていた。作り物と、作り出したものとの違いが新メニューによく出現する現象でそういった認識のズレが生じる。新商品の腕輪を眺める視覚情報、要するに映像が前者、その視覚の言語化が後者の作り出したものに対応する。

 また、僕の動きが止まったので、彼女はテーブルをとんとんと叩く。スプーンの扱いはまるでボールペンを手持ち無沙汰で扱う動きそのもの、いいやそれ以上に滑らかに銀色の重みが機械の不均質な動きに類似する。古い考え、このご時世、工場ロボットは人よりも無駄のない躍動的でかつ機敏な動きが主流だろう。訂正、このあたりは素直だろうと、彼は自らを自己分析、再評価した。観測ばかりである。

 腕輪を填めてあげる、まるで女王への献上品を直にそなた自らがつけるように、とおおせつかった映像がとっさに浮かんだ。

 煌く銀色は鈍く光る押さえつけた色合いとは無縁の輝き、大衆に好まれる選択を企業はとらざるを得なかった、社内での苦悩が窺える。反対意見の票数は少なくても、その威力と意見と動機はオーソリティを凌駕していたに違いない。

 左手につけた。彼女の利き手、ステッキをもつ右手を避けたつもりだ。

「端末を填めた右手を、指を耳に当てて。そう、穴の手前の出っ張った骨に指先を当てる感じ」金光は端末を操作、彼女の番号にかけた。二人の専用の端末である、もちろん彼女の端末から発信は可能である。番号入力は音声にも対応、登録した電話番後への呼び出しも当然音声によって、指先で扱うのと同様の機能を発揮する、目が見えないのだ、彼女にしてみれば、それこそ人ごみで独り言を呟こうと、見られる対象が見えていないのだ、気に留める必要はないと言える。極論だとは思うが、彼女ならば、いいかねない発言を予測したつもり。

 口元が緩んだ、彼女は命令する。「繋いで」微量なコール音を聞き取ったらしい、聴覚は更に感度増したとみえる。