コンテナガレージ

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お手を拝借、今日はどちらに赴きましょうか?5-8

「僕だってふざけているつもりはないよ」店主はカップの蓋を取った。彼女は一歩前に近づき、肩にかけたバッグをかけなおす。左手で受け取ったカップを右手に持ち替えた。

「だったら……、話の途中にコーヒーなんて買いません。いいですか、店長。あのですね」

「君の意見は考え尽したさ。ただ、不条理な世界が、現実というものだ。諦めきれない、執着も時には必要だね。ただし、すがるのはよくない。留まるのも危険だ。常に動いている、だから横槍を入れられた時、平然としていられる」店主は聞く耳を持った彼女に言う。タイミングをずらした買出しはどうやら成功したらしい。「変わり続ける、傍からは動いていないと思われがちだ。同じ場所、この店のように似たようなありきたりな、どこにでもある食事処は、一見して目まぐるしく立位置の変化を見せ付けているだろうか?」

「いいえ、まったく。多少変わった形式を取ってはいますが、お客の顔ぶれを見る限り、固定客が店のお客の八割を占めます」

「けれど内部は試行を繰り返す」

「はい」

「人気のあったランチメニューをディナーのメニューに加えることで新鮮さと不変の反する二つを取り入れた。土台はピザ釜が顔を出す、レトロな外観と以前のイタリア料理店の内装だ。ここにも古さと新しさがある」

「あの、一体何がおっしゃりたいのか、はっきり言ってください」

「そう、じゃあこれを聞いたたら帰ってくれる?」

「邪魔ですか?」店主が言う前に国見は発言を浚った、夜風が帰宅に睡眠を想起する材料に彼女は敏感に反応したらしい。「体調面の心配ですね」

「そうだ。君たちしか従業員はいないんだからね」