コンテナガレージ

サブスク・日常・小説の情報を発信

お手を拝借、今日はどちらに赴きましょうか?8-3

「お店の改装を遅らせて、できればこの通りの空き店舗を探して移るのなら、お客さんの誘導だって可能です」作業とは裏腹に彼女の口調が勢いを帯びる。しかし、行動に反比例、首を傾けてサルサソースのガラス瓶を見つめる一定の角度は保たれている。

 ドアが閉まって、小川の大げさため息が聞こえる。事実、大変だったのだろう。ただし、僕は感謝の弁は述べないつもり。当然のことであり、だけれど褒めて欲しいという提供側の労わりはあえて取り除くべきだ、そう店主は考える。気にかけているが、本筋はそこではないことを感じ取れてくれたら幸い。もしも、見過ごしこちらの配慮のなさに嫌気がし、窮状を訴えてこようものなら、時と場合、頻度によっては厳しくこちらの考えを言い渡すつもり。だが、一度は伝えているのであって、やはり二度目の言及は面倒、これが僕の正直な意見だ。付け加えるとすれば、自らの気分を律する事態も店に関わるものとしては、統制が取れるべきと捉える。

 テイクアウトのランチによって洗い物の手間が省かれた小川は、せっせと二人の間に場を和ませようと手刀を切って、蒸し器をシンクに突っ込む。

「改装は免れない事故のようなものだと思って、そういってあるはずだ」店主はいう。

「ですけれど、不動産屋の非をこっちが被るなんて、馬鹿げてます」

「訴えるとでも言うの?」店主は余ったパスタの麺の使い道を会話と平行して考える。

「移転費用ぐらい勝ち取れますよ、絶対」眉が急な角度を作る、館山は首の動きに連動する長髪。とはいえ、揺れるのは毛先の十センチほどで大半は団子状に折りたたまれる。

「でもですよぉ」間延びした声で小川が会話に入った。「裁判は決着までかなり長い時間がかかるイメージですし、出廷とか、いろいろ時間を拘束されてもいますよね、ドラマを見る限りでは。あとは、そうそう肝心の裁判までも異常に長いですし、裁判当日もこちらの都合はまかり通らない。費用に見合った効果という点では、不動産屋に借りを作っておいて、提案を受け入れるのがいいんですよ」