コンテナガレージ

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不躾だった私を、どうか許してくださいませ1-9

 左に進路をとった、何気なく、なんとなく、喧騒から離れたい心境に下半身が従ったんだ。

 何をしよう、着手するべき、試す、こうして探究心を探し求める心境は久しぶりの感覚に思う。引退時、かもしれないな。呟く。空っぽ。空虚。けれど、空洞に砂を埋めたのは僕であるし、まみれたお宝を掘り出すのだって、埋もれた場所を忘れてしまったからだ。元々は僕の中に存在しなかった無形物を掘り当てて、形に見えるように狭い間口に悪戦苦闘を強いられ、脱出に成功したのが、これまでの生き方。

 ガラス越しの店、じっと座って視線を落すお客と髪を切る美容師、それを見つめる私。

 切られる、切る、見入る。

 埋める、掘り出す、扱う。

 前者は自ずからを表現に変えた。後者の私は、取り込んだ異物を有形に変えた。

 なんだ、まだ砂が底にさらざらと残っているではないか、見落とし。拾ってあげなければ、次が入ってこれないのだった。大いに納得。奇怪な笑みを浮かべて、ウィンドーを通過した。晴れ晴れ、どこまでも歩けそうな勢いに背中が押される、風は止み、晴れ間が広がり、空気は澄み、空は高々、鳶が旋回、鳩がばたばた、カラスはばさばさ、私はてくてく、足取り、とんとん。歩くたびに、私が歩道にうずくまる、肩越しに数回振り返った、なにかぶつぶつ呟いてる、離脱、軽くなった体がより遠くを願った、信号がなければいい、歩みを止めて欲しくはないのだ、青信号なのにクラクションを鳴らされる、横断歩道、急に飛び出したのはそっち、けれどするりと今の私は体内から這い出してしまえる、見つかるのだろうか、それが生きがい、夜の空を今一度、今すぐに見られたらな、信号を渡りきって、どんどんビル街に背を向けて、過去を想った。そう、あのときに空から落していたんだろう、それが次の異物となった。抗体みたいだ。靴紐がほどけていた、結ぶ。気分を引き締める、さあやるぞ、いいえ、ふつふつと高まりを私は待つ。それまでは、いよいよ歩き続けてみようか、止まってもいい、考えないように理想を思想が掴んだらもうけもの。だんだん、らんらん、だんらん、だらん。