コンテナガレージ

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不躾だった私を、どうか許してくださいませ2-11

「法改正の事実は真実でしょうかね」

「と、いいますと?」店主は問い返す。相手は受話器に息を吹きかける、笑っている、微かな笑い。

「あなたの店を一時的にでも移転させる、そのメリットを享受するのは一体どこの誰でしょうか?」

「質問ですか?」雑音が混じる、電波状況の悪い場所らしい。

「いえ、疑問です。何故相手方の提示したあなたの移転を促す必須の要件をこと細かに調べ進めないのでしょうか、と訊いてます」

「あなたはどちらの立場で、物事をおっしゃっているのか、私にはわかりかねますが」

「実店舗が商品を手に入れる手段は宅配や乱立する量販店の台頭により、存在価値が薄まっている。サイト上の価格比較でもっとも安価な店から商品を購入する、その際に直接予め商品を手に取り、確かめたい場合にのみ商品を実店舗で見定めて、購入はせずにネット上で決済をおこなってしまう」

「……」僕は相手の話をじっと聞き入る。

「あなたの移転先を北上するとブルー・ウィステリアという通信機器メーカーの店舗があります。そこでは、先ごろ売り出された好調な新製品の販売に並ぶ行列が絶えず、毎日列を作り、周囲に迷惑をかけつつも、消費を促す効果を近隣店舗、主に飲食店やメディアのカメラに見切れた行列を目の前に構える店へ各国からの問い合わせが、苦情が売り上げ高上に相殺され、通りは新製品の人気が下火に落ち込むまで、活気に溢れる事態が予測される。ただし、」すうっと、彼女は息継ぎ。一応彼女と形容しておく。「改装中のビル工事がどうにも、行列の流れを妨げているらしくって、ビルに差し掛かる手前、ブロックとブロックの切れ目の交差点を渡りきって、列を曲げなくてはならないのよ。すると途端にお客は並ぶのを途中でやめてしまう。先が見えない、この表現が適当なの。それに、写真に収めるのだって、L字型よりも直線の方が望ましい」

 席を立った小川が肩を叩く、ジェスチャーで壁時計をさす、終電の時間までに僕の結論を聞きたいということらしい。時刻はそろそろ十一時半に指しかかろうとしていた。