コンテナガレージ

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不躾だった私を、どうか許してくださいませ5-1

「受け取って欲しいんだ。そうの、なんと言うか、あまりプレゼントを渡していなかったと、ふと急に思い返して。変に勘ぐらないでくれ、そりゃ無理もないとは思うけど……誤解だって理解を示してくれたら、ね。だって、僕は、やましいことはしていないんだしさ」

 今日は金光俊樹が彼女を呼び出した。仕事の予定を午前中に詰め込めるだけ詰めて時間を作った。三日前に予定を変える了解をいやみを言われつつ平謝りに終始し苦心して取り付け、搾り出した、この土曜の午後のひと時である。本来なら、体を休めたい気持ちが十二分に勝っていたが、やはり彼女を失う代償は多大で甚大である、そう金光は認識を改めた。塗りなおした、といってもいい。とにかく、考えを変えたのだ。将来性、立ち行かないキッチン講師としての職にあぶれた場合が必ず将来像のプランに引っ付く……、したがって彼女の父親、僕にとっての師匠のバックアップは欠くことはできないし、資金的な面からもそれは明らかであった。僕が躊躇う要因、彼女の目につては、それも受け止める度量がこれまで構築されていなかった、つまり免疫がなかったが故の恐怖と不安と思えたら、悲観するほど彼女との将来もまんざら悪くはない、と悟った。ただし、結婚という次のステップに踏み出す考えは保留にしてある。経済面の不安定が露呈した現在に、おそらくだが、父親の許しが降りないのは確実であり、そもそもがパン研究家などという、生ぬるい職種などを認めていないのだ、料理人は店を構えて一人前と、昔かたぎ、古臭い、あるいは時代錯誤もはなはだしい思想にまみれている、おいそれと現代を口出しをしようものなら、時間も場所も問わず懇々と説教に受けるのだった。だからこそ、あいまいに濁す立位置に、金光の意思はバランスを取り続けている。そのような現状を安直に知らん顔で続けていくために、まずは彼女の機嫌を取り返さない手はないのだと、寝ずに行列へ並び、ブルー・ウィステリアの新商品を買い求めたのであった。