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不躾だった私を、どうか許してくださいませ5-8

 宇木林はまた独特の笑い方。「決して馬鹿にしたのではありません、金光さん、あなたは自分の能力を過小評価してはいないでしょうか?」

「うーん、あまり、自慢げに見積もった態度をとったおぼえはありませんけれどね」列が動く。一歩前へ。植木を背にベンチが姿をみせる、そこだけは列の並びを避ける。一つ前のお客はベンチの幅を離れ、空間が生まれた。ただし、空けたベンチに空っぽ。人に見られてまでわざわざ席に落ち着こうとする希代な市民は早々出会わないか、と彼は推定を下す。

 宇木林は体勢を変えた、とっさの動作に僕は軽く上半身を除けた形になる。

「センシティブだ」宇木林はにやりと頬を緩ませる。どうやら、何かを試したらしい。

「なんです、一体?」いぶかしげに彼は尋ねた、手元に鏡はなくても眉間の皺に皺が寄っているだろう。

「外面的に鈍感な人物は直接、近距離においての反応速度をとり行う、いわば試験のようなものと、捉えてくれれば、理解が深まるでしょうな」男は顔に皺を作る。平常時の皺は少ないが、一旦笑いに傾くと縦に数本、両頬に現れて、しかも額にも三本もの線がこれまたくっきりと刻まれる。それでも、短時間接した印象はかなり好意的なベクトルに傾きつつはある。ただし、疑いは依然として強く残る。

「私は鈍感と見られていたわけですか、するとやはり近くではないしろ、遠目から私を見ていた、といえてしまえる」

「ええ、望んだ仕事をあなたは簡単にこなせる非凡な能力が、飽き易い性格を高めた。私にはうらやましい機能ですけれど、当人たち、あなたを含めた才能を持った人々とは持て余し、一箇所にその力を集約するすべは、どうしてか考え付かない。まあ、留まることもないのでしょう。必然性に駆られなかった、それが最も腑に落ちる理由ではあります」

「……内情を深く掘り下げて調べているみたいですね」

「相手と手を組む場合、契約を結びますが、途中で逃亡を図る危険性に意識が向くのは自然な流れではないでしょうか?」

「それで僕に、その、パンを焼けと?」