コンテナガレージ

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不躾だった私を、どうか許してくださいませ5-11

 前のお客が振り返った、声が大きかったのだろう、一瞥して前を向けと、無言で言い渡す。

「私はこの流れが理想です」宇木林は夢を語るように斜め上空を今度の標的に口を開いた。多少なりとも、辛抱強さを身につけた僕も呆れてしまう、陶酔。「その商品しか目に入らない。時間を犠牲に商品を手に入れる。まさに願った姿をこうして、お客の立場で並ぶとまた新たに見すごした情景が残っていたのですねえ、いや有難い、あなたのおかげです。しかしです、食べ物は落ち込みが激しい、注目の的になってしまうと客足は増えるが、長くは続かずに下火、それからゼロにまで移行しかねない。また対照的に、口コミで広がるお客の増幅は、あまりにもその流れが読みづらく、長期間の経過観測が常に課せられる。この二つの矛盾をどうにか、打開するためには、と考え付いたのが、常連を数多く手がける洋食屋とビジネスマン向けの中間所得層を狙うスタンドコーヒー店、そしてそして、あなたが作る少量多品種の販売と実演が噛み合って、ごらんくださいよ、ほうら、目に見えた情景がありありと浮かぶではありませんか?」

「昨日の今日だけれど、その出店の誘いを受けたの?」彼女が振り返りを遮った。喫茶店内のざわめきが全方位に取り巻く、音声は遮断していたようだ。

「悪く思わないでくれよ」

「どうして私が否定すると思ったの?」

「君と出会った場所を離れるんだよ?」

「それがなに?見えなくなった私に思い出の場所はもう不要。写真や映像、昔のビデオだって見返すどころか、億劫でもあってさえ、実現には叶わないの」

「すまない」

「あなたせいじゃないわ、私のせいでもない、まして世界や両親でも、まったくない」