コンテナガレージ

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不躾だった私を、どうか許してくださいませ8-4

 地上に上がる。交差点角のファッションビルの細い路地を左折し、一通の通りへいつものごとく店を目指した。コーヒースタンド・テイクアウトの開店時間は僕の出勤よりも早い、窓の内部に人影が見えたが、声を掛けることはしない。お客が三人並び、接客にあくせく応対する姿が見えたからだ。

「店長さん!」呼ばれた。テイクアウトの若い店主、樽前である。大学生風の容姿がこちらに手を振る。まるでアイドル。声に釣られてお客もこちらを何気に見つめる。今日はよく人の視線と交錯する日だ。

「おはようごさいます」

「後で、お話しがあります。窺ってもよろしいですかぁ?」小窓から頭が飛び出す。早朝という時間帯も相まって彼の声はよく通りに響いた。

「開店直後を避けてもらえるならば」そっちは店を離れるのか?尋ねたかったが押し留めた。僕が嫌う、お節介という名称でそれは呼ばれるもの。

「必ず、窺います」

 あれほど快活な青年だっただろうか、先週急遽開かれた会合おいて彼の態度はどちらかというと、控えめでおとなしく、従順であまり確固とした考えを持たない人物を演じていただろう。店主は鍵を開けて、店内に入る。ロッカーへ歩きつつ、通路を直進、コートを脱ぎ、コックコートと入れ替え。着替えはこれで完了。厨房に戻り、手を洗う。抱えたバイク便の封筒をカウンターに置いた。

 メニューをあれこれとこねくり回す前にと、そういえば今日のランチどうしたものだろうか?

 店主は腕を組んで、カウンターのテーブルを眺める。か細く唸った。月曜のメニューは通常、日曜に考え付く。まとまらなくても、大抵出勤と同時にまとめる。それが今日は移転のこと、車内でのいざこざなどが重なり、すっかりメニューのことを忘れていた、いいや片隅には置いてあったが、印象が薄かった、つまり重要度が低かった、ということに帰結する。こういった場合は基本、物事をロジカルに考えるべきが、手技をスムーズに運べる、これまでの経験を踏まえた店主の感触である。