コンテナガレージ

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ご観覧をありがとう。忘れ物をなさいませんよう、今一度座席をお確かめになって7-3

 人を椅子ごと持ち上げた、煙の影響が少ない場所まで種田は引き戻る。パイプ椅子と椅子に座る人物が華奢な女性であった。これはのちに気がついたことである。この時点ではまったく意識に上げていない項目。

「大丈夫ですか!もしもし、聞こえますか!」顔に被された頭巾を取る。視界がかすむほどの煙幕に数分はいたのだ、多少の煙は吸い込んでいる。後ろに縛られた紐も解く、両足も足首で縛られていた。結び目は簡単に解けた。

 女性の体を地面に寝かせる、肩を揺すって、叩く。呼びかけに応じない。くそっ。

 この人物は北海道飛行船協会の事務員で舞先と名乗った女性だ。しかし、誰が煙を焚いて殺害を企てたのか、種田は端末を取り出す。救急車の要請を再度要求した。

 だが、既に対処に当っている、との回答で、大よその到着時刻さえあいまいに濁された。おそらくは、中心街の交通渋滞に出動が偏ったのだろう。 

「あっ、うっ。あほっ、おほっ」舞先の胸がそのとき波打った。すすけた頬に顔を近づける、意識を確かめた。

「おい、大丈夫か、おいっ」

「……あはっ、うふ。あれ、あなたは、……刑事さん、」うつろな瞳で舞先の目が数ミリ開く。「どうして、あ、の、あれれ、私って、何で寝転んでいるだ、おかしいな、あははは」意識が朦朧としてる、しかし一酸化炭素の中毒症状は見られない。幾分青ざめた表情であるものの、問いかけには応えられるようだ。

「何があった?」

「……警察の人が来て……、飛行船、の記録、飛行の記録を確かめ、たいからって、それで、そしたら……、お茶を飲みました、渡されました、飲んだら、眠くなって……」

「事務所の鍵はありますか?」

「……うんと、ポケットに」

 種田は、そっと頭を地面に下ろす。声を張った。

「おーい。そこの運転手っ!」この際、敬語は無視だ。「まだ、いるのかぁー?」

 返事を待つ。

「なーんでえーすうー?」間延びした声。