機種変更を見送る通信機器の店舗を後に、真っ先に鈴木へ所在の確認を求めたが繋がらず、屋外で待機していた事実から騒動の中心に鈴木の関わりを予感した。種田は駅前通りを南へ、明るさが不穏な心境に寄り添ったみたいな空模様を感じつつ、進路を取る。
が、歩き出しの数歩、そのときに手にする彼女の端末が震えた。通行人たちは通りに佇む種田を諸共しない勢いだった。
「はい」
「飛行船協会の事務所が燃えてる、火災だ」抑制の効いたバリトンボイス……部長だ。「出火の時刻は定かではない。ただ、煙が立ち昇って間もないらしい。通りかかったタクシーのドライバーの通報だ」
「いまどちらに?」
「私が現場に行くことは叶わない、諸事情を抱える。その辺は大目に見てくれ、いつものことだ」
「上司に対する不向きな発言です、伝える前に断っておきます」
「君の捜査に沿った情報だと思ったが、こちらの取り違えだろうか。随分気が立った言い方に聞こえる」
「感情の抑制ははずしてあります」
「だろうな。切るぞ」
「どこまでご存知か、応えてもらいます」
「……こっちの弱みを握った、喋り方だな」
「私たちを派遣した理由をおっしゃってください」
「単に手が空いていたからだろう」
「熊田さんが私たちを現場に向わせる、これも予測がつくはずです」
「だからどうだ、というんだ?」
「ご自身が現場に顔出さない、あるいは捜査を秘密裏に行っている理由との関連が毎回、捜査の端々、部長の忠告の随所に散見される」