コンテナガレージ

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ご観覧をありがとう。忘れ物をなさいませんよう、今一度座席をお確かめになって8-6

「そんなことありませんって、ご冗談を、なにをいって、ああ、リルカさーん、ちょっと端末に電話掛けてくださいな」

「大丈夫なの?私、機械と苦手だから、正直わかんないのよね。爆発、しないでしょうね」館山は顔をしかめた。

「いいですか?二人とも弱腰でこの世界の進化についてこれると思ってます。何事も体験とチャレンジです、うん」

「どちらも同じ意味だよ」

「まあ、そういった意見もありますけど、スピーカーを通じた健康被害は、サイトを調べた限り掲載の報告は見当たりません。ですから、一度試して見ましょうよ」

「あのさ」店主は二人に素朴な疑問を投げかけた。端末という言葉を聞いたあたりにひっかかることである。「機種変更の手続きを踏んだ覚えはないんだ。つまり、この腕輪型の端末に電話は掛けられない」

「それは手配済みです。月単位の契約に応じた登録IDを購入しておきましたから、安心してください」

「僕の名義ってこと?」

「いいえ、お店のです」小川はあっさりという。「蘭さんが移転先の店舗に設置される通信機器、主に電話が常に繋がる状態までに店長自身がお店の固定回線を受け持つ係りだって言ったんです。まあ、ここの耐震工事の着手の日時が未定、という状況を踏まえた上で先手を打ったのでしょうね、蘭さんも窓口係は避けたかった」

「押し付けるつもりはなかったよ」店主は息を吐いた。言われてみると、移転は受け入れ、移転先の着工が始まっているとはいえ、まだこちらの要望を伝える段階だ。他店舗の要求も受け入れるだろうし、それらを集約し、練り上げ、妥協点を各店舗の代表に差し戻す。そして再び、話し合いという段取りが待ち受ける。やるべきことは山積、文字通り山積みである。連絡先は必須とは……。店主は瞬間、天を、いいや古びたシャンデリアを仰いだ。