もう駄目かもしれない、私の開発人生は幕を閉じようとしてる、今後の生活?ここが最到達点だ、これより下に下りたい、と誰が心底願えるのか、興味深い研究対象ではある。だが、私はせまり来る魔の手に抗う術を見出さなければ。
ホテルの一室、最上階のスイートに泊まる資金は潤沢に、余りあるが、寝室は適度に手狭な方に軍配がいつも上がる。しかも、老朽化が目立つホテルにいたっては古いという印象を越えたのちの新鮮さは何物にも変えがたく、それはデザインは不変である、これを如実に示している、といえよう。とにかく、小ぢんまり、収まりがいい室内が快適である、男は手荷物を隣に乗せたまま、ベッドでかれこれ二十分を過ごす。何をするでもない、右手は荷物のハンドルを握るし、靴だってスリッパに履き替えることもせず、茶色の革靴にスラックスの裾からは黒い靴下がたわんで覗く。
窓といえるほど、大げさな窓ではない。気晴らしにもならない、隣接、チェックインをしたホテルの倍はあろうかという高さのおそらくは各階ごとに企業が居を構えるビルが景色を阻む。非常用の窓が運良く、といえばいいのだろうか、男の部屋にあてがわれた。つまり、非常事態が起こった際にこの窓を打ち破って、救出を待つか、縄梯子なり、備え付けのウォータースライダーを思わせる脱出用の筒を滑り降りるのだろう。
いけない。私は首を振る。右手の力をそこでようやく抜いた、固く記憶された筋肉の形状、長時間緊張に満ちた証だった。息をつく。空調がカタンカタタと鳴る。動物みたいだった。
次に行う、取り掛かる私の目的は何に、どこに定めよう。思案のポーズは決まって、腕を組み、首をどちらかに傾ける。