コンテナガレージ

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ご観覧をありがとう。忘れ物をなさいませんよう、今一度座席をお確かめになって9-3

「はい」

「あら、ごめんなさい。いい気分で眠っていた?」女性の声だ、低音で声に香水が含まれてるみたいに、艶やかだった。

「眠ってはいない。まだ、午前中ですよ」

「そうね。それにしても、チェックインの時間早々に部屋に篭ったっきり出てこないつもり?あなた、自分が置かれた状況がわかっているのかしら、……緩慢ね」棘のある言い方、節回し。だが、私には危険を伝える、という警告のみが内部に届く。表面的な言葉の使い方、その違いや正当性さえ、多くの人物が使用してまとめ上げた規定の元に成り立っているのは、つまり何者かが言葉の選択を担い、広めて、現在の使用を牛耳ってこれまで生きてきた。だったら、相手がいかにも低俗な言葉遣いを、と認識をすること自体、作られた言葉に意識を取られてる、そういえる。

「僕がどこにいようと、あなたの関心は、秘密を口外しない、これに尽きる」

「だって、急に家を飛び出すのだもん。行方をくらまして、警察と取引を結ぶような最低のシナリオを考えなくはないでしょう。私はそれなりに頭が回るのよ」

「年齢が影響してますね」

「外国でその発言は、信頼を失いかねません」

「ここは日本。ただし、私はこの国で労働に勤しんだことはありません」

「可笑しい」女性が高い声で笑う。どこから話してるのだろう、室内か、それともホテルのロビーか。ホテルの部屋に繋ぐ場合、フロントは電話を繋ぐ断りをこっちに入れていたっけ、いまいち記憶が定かではない。女性は続けて言う。声が引き締った。「あとね、十五分ぐらいで警察がホテルに到着する。S市警察のトップシークレット、貴重な情報よ」

「僕に教えたのは、あなたの身の安全、仕事上の都合だからですか?」私は率直に尋ねた。前回は銃を突きつけ、今回は逃げるように親切心をみせる。

「どちらともいえるわね。掴んだ情報はあなたを警察が何らかの形で拘束しようと動きをみせ、それもS市警察の少数の部隊に召集がかかった、ここまでなの。それが腑に落ちなくて。まさかとは思うけどあなたは特殊な訓練を過去に習得、経験済みだってことを隠してるのかしら?」