コンテナガレージ

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私は猫に石を投げるでしょう3-6

 正面の海岸線まで歩く。風が冷たい。海を見ながらの生活はやはり慣れてしまうと海のありがたみは薄れるのだ。発見である。発見は新しいのか?なんともなしに景色を眺めるというのは、情報を取り入れることを拒んだ私にとっては仕事に専念するための不必要な老廃物を洗いざらい取り去ってくれてるように思う。傲慢だ、そういった私への評価にまったく取り合ってこなかったが、いつの間にか澱のように溜まってしまうと、取り出すにも一苦労で、無理やりこれまでは快活さや高揚で引き付けていたが、それももう私には通用しなくなって、だから、こうして自然に中から排出されるまで待つことを選択したのだった。偶然に見つけた仕様である。単に最初は、外でタバコを吸いたかったのだ。灰皿を用意して、砂に直接腰を下ろしていたら、思い出したくはないことが、まずはじめに想起されて、それを処理するまでは気分が不安定。しかし、過去の情動を受け流し、現在の私を引っ張っている要素だと知れれば、すんなりともう会わないと約束を交わして海に流すように、つながれた糸を流れに乗ってから、切れたのだ。そこからは、内部の空洞に心がけた。海岸線は人の散歩道である。本来、歩行者からは座る私は邪魔であったり、私からは歩行者にさっさと行きすがってくれと、願うのであるが、人間やリードで牽かれる動物も私と同様なのかもしれない。見ている私は、状況の観察がすべて私に委ねられているのだと、得心がいくと、綺麗さっぱり頑丈な境界線は取り払われてしまった。

 今日は何よりもまして、風が強い。黙っていられないぐらいにだ。私は、顔をしかめて、目を閉じて、砂埃に顔を背けて、しかし、頭をクリアにそして仕事と距離を置ける最低ラインの一時間を海岸のまっすぐな道をひたすら歩き、三十分を条件に引き返した。

 エレベーターはまだ故障中でだった。三基の一基。多少込み合っていたものの、上階に運ぶ人の渋滞は見られない。自室に帰還、最終チェック。

 ペンの形状を気持ち程度、ノック側の裾の開きを大きくした。大胆に一つ踏み出した程度が最適なのだ。

 別紙の説明文に目を通す、確認、合格。

 そして、送信。本日の業務はこれで終了、ご苦労様。また明日。PCの電源を落とした私は、戻ってから滞在時間を三十分で、立ち上がった。

 なにをしようか。ぽっかりと空いた時間。何もしてこなかったので、継続して日々積み重ねる経験を捨てた私は、日常の使い方を知らない。常識は自らで作り出せ。そう言い聞かせて、地下に停めた車に乗り込んだ。そうだ、車。直っているだろうか、別の車でも探そうか、それとも自分で車を直してみようか。