コンテナガレージ

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手紙とは本心を伝えるデバイスである5-1

 一F→五F

 昼間の感触を断ち切るため、いつもと違う行動に移した。この時間はいつもデスクに張り付き、子どもを迎るに足りるギリギリの退社時間と作業の進捗具合とを見比べて、旦那へ連絡するか否かの選択に迷う時間帯であったが、今日は時間にゆとりをもって作業の大半を、仕事の精度と価値を損なうことなく終えて、食堂での休憩にありついた。

 席を探す。まだ夕飯には早いが最後一押しを乗り切るため、甘そうなチーズケーキを一皿とお茶を選択して、席に着いた。

 端末をテーブルに置いて、フォークを握ったとき、窓際の人物が席を立って、私の真正面に座った。先ほど社長室で別れた刑事であった。仕事中に事情を聞かれなかったことを幸いと思い、休憩はできないまでも、妥当なタイミングと社は同席を口に出さないまでもしぶしぶ許可した。

「食事の片手間で結構です、耳を傾けてください」

「すいません、私、疲れています。……手短にお願いします」社はあからさまに横柄な態度をわざと示し刑事を迎え入れた。仕事の区切りがついていたからだろう、社は表面が適度な固さのチーズケーキを一切れ、口に運んだ。

「時間は取らせません。食べ終わるまでに、済むと思いますから」刑事は言葉を続けた。「仕事の確認のために会議室を訪れたところまでを聞きました。エレベーター内で武本さんと安藤さんに会いませんでした?」

「会っていません。もしそうなら、最初に聞かれたときに話してます」

「そうですか。十分前に会議室への入室が許される。相手が社長ならば時間の厳守は当然の行動。すると必然的にエレベーターに乗る時間は重なる。また、入室が許される時間は約束の十二時から十分前ということでしょうか、それとも会議終了後の十分なのか、少々疑問が湧きましてね」

「会議が終われば、出るのは自由ですよ」

「ほうほう。つまり、その場に居座ってもいい、ということですね?」

「何がおっしゃりたいのか、勿体つけた言い方は嫌われますよ」渋いお茶の苦味と刑事の発言に渋面を社は作った。

「ご心配には。もう既に嫌われてます」

「そう」やりづらそうに社は疲弊した脳細胞に供給する糖分を補給した。口中に甘さを味わい、その次にお茶でさっぱりと流す。甘くありつつ、しかし長時間の滞在は好まない。まるで、殺しに手を染めた人物みたいだ。殴って快感を得る、立ち去ってその感触を取り払う。

 肘を立てた刑事は骨ばった手を組み合わせた。引いた顎が申し訳程度にそこに乗る。「会議室のテーブルの下部、天板の下は十分、隠れるにはもってこいの環境。あなたたち以外が、もしかすると会議室に潜んでいたのかもしれません」

「その人が殺人を犯したっていうんですか?」私は小声で顔を寄せて刑事に問いかけた。社長の死はまだ非公開である。