コンテナガレージ

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手紙とは事実を伝えるデバイスである3-1

 三F

 変な行動だった。それは確かにいえる。だけれど、私は黙っていた。それは私にとってもプラスには働かない、かなりマイナスな可能性をはらんでるから。もしかして、これは罪になるのだろうか。黙っているだけ、真実を語らないと罪に問われたりするのか。わからないけれど、でも、社長の死によって僕は多少救われた。今日の楽曲の配布だって、遅れたのはそのためなのだろう、いいや、社長はそれほど前に死んでいたとは思えないな。

 一人ずつ配られるCDはコピーではなく、かつて店頭に並んだ商品たちである。中古で買い付けたのか、よくよく思い返すとこれまでのCDは一体どこに消えたのか。ああ、ビルの上階が倉庫なのかも。それはそうだろう、一曲を買うのにだって相当の社員全員が一斉に聞く枚数だ、使いまわしていても最低社員分の枚数は必要。CDがいつどのようにして、用意されるのかは、知らない。出勤するといつもダンボールに詰め込まれたCDをデスクに着く前にプレイヤーと共に渡される。管理している人物がいるはずだ、経理とかそういった事務的な作業の社員にはことさら会ったためしがない、と安藤は記憶を辿る。健康診断や給料や各種税や契約書が発生する書類はすべて電子化されて個人のPCに送りつけて、それが接触

 警察は個人的な行動の違和感まで探りを入れたい様子だった。捜査にとっては重要なのかもしれない。だけれど、私にとってそれはとても言い表したくはない事柄である。だって、武本が端末で誰かと、通話相手を社長と呼んでいたことはやっぱり黙っているべきだろう。それはだって、つまりは、その、彼が犯人であることを仄めかす重要な証言だからだ。関わりたくはない、今日は目一杯働いた。ただし、もう少しだけ、様子を見ることに決めた。いいんだ、これで。連続殺人でもないのだから、突発的で勢いに任せた仕業だった思うな。待てよ、ちょっと待て、まずいぞ、これはいけない。武本がもしも、会話を僕が聞いていたと判断したならば、僕はもしかすると、ひょっとして、ダメだ、状況がさらに悪化どころか、私が存在を抹消されてしまう。刑事だ、熊田という刑事に連絡だ。連絡先は聞いていなかった。どうしようか。落ち着け。ここはどこだ、間仕切りのない仕事場ではないか。深呼吸だ。大丈夫。それによくよく考えてみれば、武本が犯人であるというもの、信憑性が高いというだけで、なんら証拠はないのだ。彼の衣服には血液が飛び散ってもいないし、凶器も持っていなかった。廊下にもそれらしいものは見当たらなかったように思う。観葉植物だって、鉢を持ち上げるには大きすぎるし、持ち上げたとしても鉢の土がこぼれてしまうだろうから、これは再現性が低い。