コンテナガレージ

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手紙とは事実を伝えるデバイスである8-5

「応援の警察が来られないのが私たちをここへ足止めさせるための要因?」目をぐるりと回して、玉井は結論を導き出す。社長という役職について、考える機能が備わったのだろう。おそらくはそういった素質を社長は見抜いていたに違いない。ただ、社員という枠に囚われてるから、能力発現の機会に恵まれなかっただけ。どこかで自然と足を引っ張る、不必要で、表に出ることを拒んだ彼女がいたはず。優れた頭脳は二種類存在すると、熊田は考える。一人は、種田や喫茶店の日井田美弥都のような外界に問われないまっすぐな指向、そしてもう一つは玉井のようにその能力の高さによって、発現した場合の周囲に与える影響までを行動の範囲に取り入れ予測してしまう先見性の高さ。無論、前者の二人も先見性は十分に備えているが、彼女たちは、自分たちの見たいビジョン以外を遮断できる隔絶性を持っている。

 熊田は彼女の問いかけにたっぷり時間をかけて答えた。「……橋が崩落したのをご存知ありませんか?交通渋滞にはまり、そちらの応援に警察が借り出されてるためですよ」

「嘘がうまい」彼女は細い顎を上げる。

「いいえ、事実です。なんらお調べになっても……」

「外の情報に興味はありません」

「ここの方はあまり外部の情報に無頓着というか、仕事だけに専念しているように見えます」熊田は落ち着いた声で話題を摺り代える。

「必要がないのでしょうし、プライベートに費やす時間と時間そのものの概念が外の人たちとは異なる。二十四時間が常に迫る、締め切りが毎日ある世界を想像してください。あなたの場合は一日で事件を解決に導くのですか。ひっきりなし、年中、特定の時間に縛られる状況は、例えば、この時間にテレビを見るために仕事を早く切り上げる、この時間までにレストランに足を運ぶ、それらは一日をどこかでリセットされる時間感覚、私たちには食事や娯楽でさえも二の次にしかなりえない。だから、食堂は一日中稼動してます。さらに、締め切りを翌日に持ち越すようなときには、翌日はまた別の仕事を抱える。この生活の、どこに外部に感けて、遠く離れた見知らぬ人に同情ができますか?」

「社長が亡くなって、あなたの心情は揺らぎましたか?」淡々と話す彼女に角度を変えて熊田は聞いてみた。二人の関係に相手を思うが故の冷たさ、密接さをなんとなく感じた。

「それを訊いてどうしようというのかしら」

「いえ、興味が湧いたのです。社長の職を代理であれ、譲り渡すのは、どこかで繋がりがあると考えるのが妥当です」