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兎死狐悲、亦は狐死兎泣 8-3

 三枚目、文字を拾う。
「天窓といろりは可動式なのでは、と思いました。意識を失いかけたときおぼろげに煙を見たんです。もうろうとした意識、混だくしていたので、確証は低く捜査の足しにもならないでしょうが、襲われ生き残った唯一の被害者の証言だと大目見てどうか最後まで読んで欲しいものです。僕は今病室を抜け出してます、そちらにファックスが渡る頃にはもうホテルの地下入り口ゲートを左もしくは右手に道路を走ってる頃でしょう。徒歩ではありません、抜け出したことは僕に関わるけいさつ病院の医りょうスタッフに事情を話し了解を得ました。体の具合を心配してますね?その点はご心配なく、きゃしゃながら頑丈にどうやら母親は生んでくれたらしいと二十六年目にしてようやく判明したしだいです。高速には乗らずに下道をえっちらおっちら走ってますのでまだすそ野の森林に沿って、という位置状況でしょうか」
 四枚目に移る。
「日記に書かれてあったウドウモモコの通院先の病院を、まずは訪ねてみます。日記の存在を当時の捜査陣は、事件のあらましを公開した事件発生から一年後の、さらになんと半年経ってマスコミに知らせた。マスコミの注目度合いによる捜査のけいぞくや捜査員の増員を考えていたけれど、ご存知の通りお茶の間をにぎわす話題はほかにさらわれた。と、いうわけで日記はその存在を知られていながら事件を紐解く重要しょうこへの格上げは見送られました。数人は手帳の内容、もちろん捜査員は彼女ウドウに張り付いてS市へ追跡していたのです、釈放された四日後の大移動をけいさつが見落とすわけもありませんよね。今考えると、見落としたというよりもね、知らぬ顔の半べえをきめこんだと思うんですよ。いまさら蒸し返すにも人手は不足、ちなみに管かつとそれに指揮はA市の所管です、S市に比べたらかんかつりょういきに対する捜査員一人当たりの対応区域の面積は三倍以上はあります、道央最大の都市は伊達じゃありません。とはっても『ひかりやかた』周辺はほとんどが林野に畑、犯罪発生地区は当然都心や住宅、工場地に限られるので、実質的に捜査員の仕事量は僕らと大差ないでしょうね」