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摩擦係数と荷重1-3

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 鈴木は到着後から40分前後で現場から去っていく。上層部から早急に二件の事件の関連と今後の対策、犯人の行動予測を報告するように伝えられていた。一件目から事件性を疑い増員をかけていれば、焦りを末端の熊田たちにまで露呈させる段取りの悪さが伝わらなかったはずだと、新しく駆けつけた捜査員に何度も同じ文言で事件のあらましを話しながら熊田は考えていた。スーツ姿の種田は上着を脱いでいた、情報を聞きにきた捜査員が種田を見ては彼女からきりっと睨まれていた。顔立ちは整い、眼鏡をかけている。いそいそと近寄って見ると、その機械的な口調と心まで凍ったような言動に振っていた尻尾はくるりと丸められて、まさに尻尾を巻いて逃げていく。大きな事件ともなると見知った捜査員以外に、別部署からの応援がやってくるので、こういった事態に種田は巻き込まれていた。熊田の見解では彼女は総称して綺麗であるがゆえにあの性格が作り上げられたのだと思っている。つまり、言い寄られる頻度が肥大していたための防御策である。

 繰り返し話すことに飽きてはいたが、収穫もある。どんどんと情報が整理されていくのだ。まるで、床にばら撒かれていた書類が種別ごとにファイルに納められ、しかも本棚にまで仕舞われる。必要のない箇所と注目すべき点に焦点がぴたりと合わさるのはいつも時間を置いてからであったのに、今日の熊田にはそれが数時間でやってきた。

 制服警官が道路の侵入先で通行を止める。現場に走ってくる車は一台もない。

 一件目と二件目の類似点は?

 同一犯だろうか?

 疑問。確信。車。車道。傷。鈍器。女性。

 そう、狙われたのは女性。

 数名の捜査員と共に2人は現場に隣接する草むらを捜索する。昨夜に比べて格段に視界は良好。しかしだからといって、被害者あるいは犯人が残した証拠品を当てもなく探すというは、案外骨が折れる。前日にもいやと言うほど味わっていた。それでも文句を押し殺して、作業を続ける。手がかりがなければ、狙われる対象を守れもしない。地道に、可能な選択肢を踏み潰していくしかないのだ。以前のような、謎解き事件のそれとは別種である。

 捜索は約5時間にも及んだが何一つ証拠となる品は発見されなかった。同時に川もさらって捜索したが年季の入ったゴミだけがすくわれるだけであった。

 捜査の方針を決めかねている上層部の指示が下る前に熊田と種田は隙を狙って現場を離れた。二件目の被害者の自宅を捜索するためである。熊田は上層部からはのけ者扱いを受けている。突出した能力と単独行動がそうさせたのだ。だから、面倒な仕事は頻繁に熊田に押し付けられる。ただし、熊田に許された単独行動は願ってもない役得なのだ。一人での捜査でこの彼の能力は最大限引き出される。種田とのコンビは、熊田の監視あるいは厄介者の集約のいずれかであろう。種田も特殊な対象と上層部からは捉えられている。