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ゆるゆる、ホロホロ7-1

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 明治期建造の過去の遺産は平成の時代にあっても平然と黎明な姿をさびされた町の坂に沿って日本海に正対させる。夕刻の西日が差し込むO署、追いやられた部署に熊田と種田が暇をもてあまし、帰宅時間の知らせを今か今かと鐘の音を待つ。クシャリと空のタバコが熊田の手の中で握りつぶされる。むなしい音は室内に轟いた。管轄外の二人の捜査は当然ながら、終わりを告げた。S署の取り調べの進捗具合は、皆目見当もつかない。唯一の情報源は喫煙所にて捜査員が噂に上げる世間話をそれとなく耳に入れる程度、そこには確証も確実性もまったく望めない薄っぺらなテレビで知れる情報だと、テレビを見ない熊田がひしひし、背けた体で体感した。
「連行された女性ですが、一連の事件の犯行を彼女がすべて計画し、成し遂げたのでしょうか?」背もたれに数センチ空間を空けた種田は窓を重たい瞼で見つめる熊田に、数十分の沈黙を破り質問を投げかけた。
「納得がいかない、とはっきり言わないんだな」
「犯行は、このまま女性が逮捕されなければ、永続的に続くのかと。捕まえて欲しかった、車で撥ねた行為にこれまでの計画性は微塵も感じられない、むしろ稚拙さや粗暴さが前面に現れている」
「最後の犯行が最大の目的で、前二つの犯行は欠かせなかった。または、箍が外れてしまったか」熊田は禁煙のパイプを咥え、足を組み、種田の問いに素直に応答した。
「犯行を容易く遂行する、そのためには二つの事件は起こさない方が、対象者には近づきやすい」
「亡くなった場所を訪れるときを狙ったのかもしれない」
「友人やクラスメイトといった繋がりは、認められませんが」種田は熊田の思いつきの矛盾を指摘する。
「あくまでも推論だよ、突き詰めれば事実にだって綻びは生じる。どうしてその場所へ足を運んだのか、いつもとは違う行動だった、いつと比べているのだろうか、昨日かそれとも一週間または一ヶ月、一年か。行動に制限をもたせる理由に幼さは不釣合いだ。むしろ大人のほうが、規制や規則に縛られてる」
「素直に自供に従うでしょうか?」
「我々が欲しいのは、自供よりも証拠。そのありかを真っ先に聞き出す」
「それでは事件はまったく解決には至っていません。むしろ自分たちで覆い隠している。再犯を防ぐのは口だけで、対策はいつだって講じている、その一点張り」
「今日はいやにとげがあるな」熊田が種田の表情を横目で捉える。多少、頬が赤い。ほんのわずか、気持ち程度だ。種田の肌の白さによるもの。
 ドアが開いた。熊田は種田越しに入室してくる人物を物珍しそうにみた。種田は遅れて振り返る。

「部長!」種田が高い声で言う。
「おはよう」
「おはようございます」種田は立ち上がって即座に、滅多に会わない、生きているのかさえ疑われる人物に早朝でもないのに挨拶を告げた。今日始めて会ったのだから、いいのかと、熊田は納得した。
「今日は二人だけか?」窓際のデスクに部長は腰を落とすと二人に投げかけた。「こっちとしては好都合だ。お前たちには例の事件の全容を話しておく」
「なぜ部長が事件のことを把握しているのですか?」素直に種田がきいた。当然の質問である。