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DRIVE OF RAINBOW 7-3

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「どのような事件です?」

「具体的には言えん。強いて言えば、凶悪な事件とでも言っておこうかな」

「それではあまりにも抽象的過ぎます」鈴木が首を振る。

「鈴木、お前そんな話し方だったか?」

「へ?おかしいですか」鈴木は空いている手で口を触る。

「女みたいだな」

「だから言ったろう、もっとしゃきっとしろって!」鈴木は男らしさに欠けるところがある。一般的な見解に当てはめたらの話で、相田自身は言葉にこそすれ本心ではなんとも思っていなかった。

「はい、すみません」鈴木は素直に謝った。多少の罪悪感を覚えた。

 部長が振動した携帯を取り出して耳に当てた。軽く掌を二人に見せると、電話の相手に応対しタバコを捨てブースを出て行った。手相の自慢をしていたのではないが、深く刻まれた皺が克明に相田の脳裏に焼き付いた。

「また、行っちゃいました。部長を尾行したら結構面白そうだなあ」

「やめとけ、すぐにバレる」

「相田さんは案外小心者ですね。もしかして経験者とか?」

「俺じゃやないよ、他の部署の奴が面白半分で非番の日に部長を追跡したら、そいつ翌日から様子がおかしくなって、しまいには警察を辞めていった。部長が何かしたという証拠はないが、あいつはなにか見たんだろう。いくら聞いても何があったのかは話さなかったらしい。まあ、でも部長が直接制裁を加えるとは思えんがな」

「意外に、やりかねませんよ」

「だれだって意外だよ。お前だって俺だってすべてをさらけ出しているわけじゃない、本人はそのつもりでも無意識に隠してる内面は誰にも存在する」

「哲学的というか抽象的というか」

「語尾を曖昧にするのは衝撃を和らげたいから。お前の、"というか"はその効果がある」

「みんな使ってますよ、相田さんだって使ってますよ」鈴木はあからさまに頬を膨らませる。

「お前は人一倍、癖みたいに使ってる」コーヒーを傾けて相田はブースを出た。 

「どこ行くんです?」

「情報班にそれとなく聞き出しに行くんだろう」

「気が進みませんね」

「行くぞ!」

「はーい」気のない鈴木の返事が無人のブースにこだまして、吐き出したての煙だけが生き物のように贅沢に室内を浮遊していた。背後の、窓から望む青は別の白い塊に押されてだんだんと居場所を侵食された。