コンテナガレージ

サブスク・日常・小説の情報を発信

飛ぶための羽と存在の掌握4-3

「人が亡くなれば事故死です」種田は間を置かずにこたえた。優秀で最前列に座る学生。

「運転手の操作ミス、故障、路面、視界状況の変化の影響下で引き起こされたもの」相田も続く。

「当時私は彼女の夫の死について疑問を持った。事故死で片付けてよいものか、という疑問だ。事件は待ってはくれない、それも事件は立て続けに起こるのが常だ。捜査は事故で片付き、終着をみた。たが、私は捜査を継続させた。上はいい顔はしない。目の前の仕事にかまけて優先事項を一段下げるのだからもっともな態度、意見だ。だから、私は捜査の合間を縫って見過ごされた証拠を調べた。そこで一つ、不可解な事象が発生する」部長は煙を吸って吐き出す。「証拠車両が早急に解体業者の手で鉄くずと化していたのだよ」

「ええっと、たしか、事故事件の疑いのある車両は一定期間保管されるんじゃなかったでしたっけ?」鈴木は広角に意見を照射した。 

「そう。車両は事件事件の可能性が一度でも疑われると、一定の期間、疑いが晴れてから一ヶ月の保管を義務付けている。だが、私が倉庫を訪れると車両は運ばれた翌日に撤去の通達が下だり、スクラップに様変わりしていたということだ」

「証拠隠滅を何者かが図ったと?」鈴木がまた聞いてくれた。

「深く詮索すればお前が思い浮かべた内容が妥当だろう」部長の煙が漂う。分からない。種田は呼吸を整える。まるで事故が事件として疑いが持たれるように仕向けている気もする。

「同種の車が事故を起こせば、理知の事故にもスポットが当りますよね。事故に関連を見出さなかったんですか」

「事故は通常の交通事故として処理されたよ」

「あえて事件と疑いを持たなかったという可能性はあるのですか?」珍しく熊田が部長に聞いた。

「ある。ただし一度処理された件を蒸し返すのは各方面に顔を立ててから、上の許可を得てようやく捜査が再開される。苦労を強いて少ないプライベートを潰す奇特な人間はそうはいないよ」部長の肩が持ち上がる。

「じゃあ、部長はその言えない人達からの指示で捜査を行っていたんですよね?部長自身はどう思われますか?事件かもしく事故かの判断ですが」

「事故を思い描いての捜査と事件としての捜査はまったくの別物であって、事件は事故を含むが、事故は事件には含まれてない。事件としての捜査が妥当であると私も判断した。……しかし、それはここから遡って観察すればの話で当時の現場では事故を覆すほどの事件性はなかった。水面下で私が動いている、見つからないように私が席を外しているのはそのためなのだよ」

 皆が顔を見合わせた。衝撃の事実では、悲鳴を上げたりはしない。驚いて声が出ない、動きが止まるほうがよっぽどショックを受けていると感じる。まさにこの状況がそうである。種田も冷静を装いつつも目は大きくなっていた。

「では、部長は捜査のためにキャリアを捨てて事件解決に奔走しているということですか」

「キャリアを捨てた覚えはない。まあ、キャリアを積みたいとは思ったことはないがね」部長も私と組織に対する距離は似たようなのだろう。ただ、部長の椅子が仕事もないのに常にそれも数年間用意されていのは理解し難い、と種田は思う。