コンテナガレージ

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焼きそばの日5-1

 出店の日取りが決定、連絡は電話と文書で伝えられた。ロックフェス出店の決定は国見蘭に多少の驚きと動揺を与えた。だけれども、即座に店長のことだからと、意見を肯定に覆す。店長は私の預かり知らぬところ、店にも届きそうな領域で考えを紡ぐのだ。私などの底辺の凡人に行動の先読みができるはずもない。

 しかし、だからといって動機はつぶさに観察、観測を怠らないつもり。あまりに突拍子もない判断は、手を挙げて結果が出てから取り組む。一週間前に話していた内容によれば、出店は安定した客入りに変化を生み出す。さらに攪拌、化学反応を引き起こす算段を狙ったのだろうと予測を立てた。国見は二十代前半ながら飲食店の店長を任された経歴を持つ、経営における舵取りのイロハは身についてる彼女である。不規則な店長の行動は、利益よりもデータ、実験を優先していることが要因だろう。観測とも言い換えられる。それは国見が店長を見つめることと同義の意味合いである。観測は店長が蓄積するだけ。従業員には真意を決して打ち明けられない。店の変化を小川には話していたが、行動にはもう一つ意味があるように思えてならない。あえて道外の者が集まる場所に出向いて、日々地元のお客がメインのこの店で営業を続けるのだから、あまりにもその行動は異質で不可解。無意味とさえ、意見の極論では言われるかもしれない。

 何を狙っているんだろうか、小川はランチの終わった静寂の時間帯でレジの伝票を確認しつつ、器用に考えをめぐらしていた。

「戻りました」一番に休憩に入った館山が戻る。彼女は厨房へ。「来月の六月の十三日が保健所の審査日。不通過の場合、出店は取りやめになります」館山が話した内容はどこで仕入れたものか。彼女は休憩に入ったのだ、店長に頼まれたのか、知らないところで事態が動き出しているのに。微かに、国見の気持ちが揺らいだ。私に一言、話を通してくれてもいいのにと。

 店長は、館山が手渡す書類に目を通す。

「出店を募っているにも関わらず、各店の責任は個人に任せる。総合的な見解として、うん、出店のメリットは少ないように思うね。これを読む限りは」店長はどうやらフェスから送られた文書について発言しているようだ。つまり館山は手が離せない店長に代わって、前のように支払いか申請書の提出を任された。それなら私に頼むべきでは、国見は首を振って耐えた。みっともない、権利を履き違えている、主張をするな。まったく、あきれて物が言えない。

 気分を落ち着けて、カウンターに移る。二人の会話が正確に聞き取れる場所に仕事とかこつけて場所を移した。レジの会計を入念にチェックする。