コンテナガレージ

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焼きそばの日5-2

「三十万とか、高いと四十万です。もっとも広告を打って雑誌に載ったりメディアに取り上げてもらったりを待つよりかは、効果的な宣伝が期待できる」

「おいしい、とは思う。ただ、それを家に帰って、街のどこかでその時食べた店の味をもう一回味わう気分が再燃するだろうか?」

「店長が確かめたいのはその部分では?」

「……範囲は跨いで入るけれど、ニュアンスが多少異なる」

「はあ、ニュアンスですか?」

「再燃を頼りに店を探す味を僕は体現してみたい。ただし、それには舌に残り易い味が必要だよね。夜店や出店はほとんど味の濃いものが主流だし、味付けの薄いのっていうのは、おでんぐらいなものだろう?おでんだってしっかりと出汁の味が染み込んでいるから、薄いとはいえない。イカ焼きだってりんご飴だって、それこそ焼きそばや定番のたこ焼き、綿飴、クレープも濃い味に傾いている。欲しがるのさ、たまにだからね。主食ではないのだ。僕は主食、毎日でも食べられて、飽きずにその味を求めるお客の舌に響かせたいんだけど、これが難しい」

「メニューの決定は三週間前だから、来週には主催者側に提出しなくてはなりません」メニューは二品までというルール。出店要項には衛生上の問題を未然に防ぐため、取り扱う食材の種類を限定したのである。ただし、扱う食材が同じならば、二品目以上の品は提供可能であるとのことだった。説明文を読み込んだときに感じていたわかりづらさ。言葉尻は丁寧さを装っているが、注意事項部分の”主催者側は一切関知しない”、との部分には丁寧さとの落差を感じた。冒頭部でも、出店側にイベントの趣旨は押し付けている。やはりどこか他所から雇い入れた者との認識。こちらは主催者、という傲慢さは否めなかった。

「衛生上、パンと焼きそば両方は問題がないだろう。一品で十分だと僕は考えてる」

「主催者の意向に従う態度は店長らしくありません」普段冷静な館山が詰め寄った。カウンターから二人の姿は盛り上がる皿に隠れて見えない。

「新しいメニューの考案が億劫とは思っていないよ。勘違いしてるね、館山さん」

「だったら試すべきではありませんか、挑戦ですよね?」

「大げさすぎる。以前の状態を観測できる、飛び跳ねる場所が肝要。外周へ行き過ぎてもいけない。居場所は差異だ、これまでとのね」店長は諭すように言った。「意見があるなら聞こう。聞く耳は二つだけど持っているし、今は仕込みの時間、精神的な余裕は持っているつもりだ」

「……だったら、考えた私のアイディアを採用してください」

「積極性は買うけれど、今回は見送らせてもらう」

「食べていないのに判断されるんですか?」

「自信があるようだね」

「店長のコンセプトは網羅していると言えます」自信に満ちた声、そういえばこの一週間、館山はランチ終わりに食材を買い込んでなにやら試作品をせっせと作っていた。ランチメニューの開発を店長から言われていると思い込んでいたが、フェスのメニューを考案していたらしい。