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重いと外に引っ張られる 4-4

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「どこが論理的……」
「魔とは何でしょうか?心の隙間。あるいは、日頃の勤務態度がきちっとしてかつ警察という無性に近い奉仕も残業に含まれた。仕事だと理解しても定年までの全うが困難な職種です。私生活でイベントなり、付き合い、デート、趣味の時間、家族とのふれあいなどが全く存在しないとすると、通常の職種よりも鬱積したストレスは多いでしょう。特にデータをとって検証していません。ただし、正義感だけでは精神が持たないと想像がつくのです。私はテレビを見ないので知りませんけど、三件の事件にはそれなりに巷では騒がれていると考えると、その話題にちょっと手を加えるだけで、自分の行動が世の中に反映される。それもいとも簡単にしかも手軽に。人を殺したのは自分ではない、近くにいても疑いはかからない、と思っていたのでしょうね」
「単なる動機の説明です。犯人に聞けば想像しなくても判明しますよ。私が訊いたのは、どうしてあなたがそれを説明するだけの理解を得たのかです」種田の指摘は正しいが美弥都がなんの考えもなしに発言するとは熊田には思えなかった。
「あなたはその警察官のどこに引っ掛かったのでしょうか?見張りの警官ですから、目立った行動は控えていたはずです」種田を無視して美弥都は熊田に尋ねる。
「発見者の女性が個人的な事情から人通りのない遠回りになる現場を通った理由を隠していました。これは我々が現場に到着した直後は知りえなかった。……その女性は死体を直視してはいなかった、トンネル内は暗く、動かない人だとは判別できても遺体にオイルが付着していたことにも気がついていなかったようです。彼女の言葉からはオイルという言葉が聞かれなかった。それに、怪しい警官が現場に到着したであろう時間から応援要請までの時間が長すぎる、そして通報者の曖昧な通過理由。当初は、彼女だけが何かを隠しているか、彼女と警官は顔見知りなのではと考えましたが、見張りの警官の表情が不自然だったから、なんとなく臭ったんです」
「オイルの匂いですか?」とぼけた声で種田がきく。美弥都に対する攻撃的な物言いとは真逆の作用だ。
「いや、そうじゃない。見張りの警官は交代や現場保存が解かれるまで、その場に居続けるのが義務だから交代や現場に詰めていた捜査員や鑑識連中がいなくなと、ほっと一息できる。だが、あの警官の顔は我々が帰る時にぐにゃっと歪んだのさ。お前もわかるだろうが、嘘をついている奴は顔のパーツがどこか正常には働かないように精神が身体でバランスを保っている。しかし、そいつは犯人ではない」
「また決めつけや勘ですか?」
「日井田さんと同じなんだが、あの警官には時間的にあの場所に遺体を放置することは不可能なんだ。遺体発見の2時間前に交通事故の処理記録が残っていて、事故の処理には事故発生から到着、対応、応援、救援などをあわせても数時間はかかってしまう。急いで交番に戻ったとしても交番勤務に単独での行動は許されていない。つまり、彼に遺体の放置は無理なんだ」コーヒーを飲もうとカップを傾けるともう空であった。熊田は短くなったタバコを消して、新しい一本に火をつける。
「おかしいですね?」
「なにがです?」美弥都の疑問をこぼさずに拾う熊田である。
「お気づきになりません?」バカにされたようなほほ笑みにも思えたが熊田には女神の微笑みしか映らない。
「だから何がですかと聞いているんです!」しかし、隣の女神は明らかにお怒りのご立腹。
「そう、わからないの。ええっと、どうして警官は通報の時に一人で現れたのでしょう?この事実は刑事さんの発言と矛盾しないかしら」熊田の目がはっと開く。忘れていたように口から煙が立ち上る。グルグルと頭が働く。断片がつながりの様相。発見、警官、オイル、回り道、トンネル、一人、交通事故、記録、車、銀行強盗、妊婦、母親、レンタカー、娘、……。
 ガバっと熊田は立ち上がった。
 急な動作にお客の視線が集まる。焦点の合わなかった目に光が戻り、惜しむように一口まだ新しいタバコを灰皿に押し付けて、「ありがとうございます」と美弥都に礼を言うなり出してしまった。種田は、財布から取り出してお札をテーブルに置き、無言の会釈で熊田を追いかけた。