コンテナガレージ

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今日は何の日?2-1

 先週から今日にかけて消印のない手紙が合計で十二通、店に届いた。

 内容は豆をランチに使え、今日は豆の日だ、豆をどうにかランチで使って、豆はおいしいよね、豆は最高、豆をもっとというもの。そのほか、紐の日、豆の日、アサリの日と書かれ、豆の日にだけ赤く丸で囲っている短いメモ書きのような文章が送られてきた。封筒には、大豆やピーナッツ、グリンピースなどの豆も入っていた。

 さらに、豆の写真や豆に小さく"ランチ"と、書いた気づきにくい訴えも、封筒から見つかる。いたずらにしては手が込んでいて、かといって警察に届けるほどの労力には見合わない。今日も店を開くのだし、これから仕込みに取りかかる、店長は従業員に知らせないまま、本日の料理を大胆に変更することととした。

 今日はいつもよりさらに早く午前七時前に店に着いている。うっすらと夜が明けたばかりに目が覚めて、しかし老化ということでもないのだ、仕事以外に労力を極力割り当てず早めに眠ったので、朝日に体が反応したのだろう、店長の解釈である。

 手紙を片付け、屋外へ。

 南北に流れる昨年改修工事が終了した川を渡る。川沿いの遊歩道を人が歩き、走る。体力増強に組織破壊のランニング、健康維持の歩行。景色と川の流れを黙って見る人は、ひとりもいなかった。店長は橋を渡って、場外市場に足を踏み入れた。

 耳につく呼び込みの大声も観光客もまだまばら、早朝という時間帯を一応市場で働く人もわきまえているようだ、店長は目に付いた目当ての八百屋を目に留めて、店先、角度をつけ、斜めに並ぶ商品を見つめる。豆と一口に言ってもかなりの種類がある。食材としてポピュラーなのが大豆。豆腐や枝豆、納豆もそうだ。集客には目を引く製品が必要である。ただし、まったく目新しいとまたお客は食いつかない。知っていて、単語を、名詞を名称を知っていながら、口にしたことのない、体験の少ない物を店長は探す。

「目に付いた商品があったら、味見してごらんよ。あんた、お店の人でしょう?」一般の観光客と区別した境目、判断の要因を店長はつい聞きそうになったが、店の女主人は後ろ手に店の奥へ引っ込み、細い通路に置いた椅子に腰掛けた。

 ソラマメを手に取る。それとスナップエンドウも。これはサラダの使用がいつも前提だったので、あえてメーンに取り入れる。およそ百人分、一人に換算するとソラマメだけで二十粒前後、一粒が約二グラムだから四十グラム、合計で四キロ+皮の重量。スナップエンドウはソラマメの約半分の重さ、それでも二キロとすると、二種類で六キロを超える重さと、かなりの量である。店長は購入を決めた。

「重たいだろう、届けてあげるよ」女主人は威圧を抜いた眼差しで言った。誰が届けるのだろうか、店には彼女しか店員はいないように思う。