コンテナガレージ

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巻き寿司の日3-3

「退会を求めた協会員が殺された、という事実を耳にしましたが、それについての意見を」

「どなたから聞いたのでしょうか?」

「あなたたちの側に取り込まれ、命の危険を感じた方です」

「柏木さんはやはりこちらに来ていた。もしかすると」田所は通路の奥に顔を向けた。

「どこかに潜んでいるかもしれない、この店にどこかにね」それからいたずらっぽく国見を見て、言葉を付け加える。

 決まりきったメニューを二種類、用意するが、どこにも新鮮味は感じられない。つまらない。そもそもお客の立場、彼らが買い求めたい、その意欲を駆り立てるラインナップではないように思う。

 店長は田所が言い分に窮する演技の最中、メニュー構成に物足りなさを感じていた。田所の話など忘れてしまってもいいが、今後、面倒に巻き込まれる予測も僅かにではあるが残される。そのため、あえて意見を聞き入れ、こちらも歩み寄ったのだ。

 しかし、田所と対するにあたって一つ思いついた考えがある。彼らがよりどころにする教えはいつの世も、大小さまざまな形であれ、常にあたらしいもの。個人の思想が広まった教えから、過去の教えを現代風にアレンジしたとっつきやすい新装の教えまで多種多様なバリエーションが見られるの実状。多くの人に行き渡ったと思われる思想であっても、新しく学ぶ人が絶えない世界、そう捉えることができるだろう。だから、普遍的な価値を持ち続けられる、その間に人は入れ替わる。長く続けるとその傾向は顕著だろう。

 店長はメニューに不変と革新の二つを掲げ、不変を基準に重きをおいてメニューを定めるべきだ、と再び捉えなおし、まとめた。

 不敵な笑みを浮かべる。異質。相手への反応はこちらで、そう、定められる、自由が個人にはあって当然。真剣な討論の場であってもその人物が何を言っているのか、発言の内容にのみ耳を済ませることが寛容で、口調や語尾、敬語の正しさや秘められた感情など、瑣末である。

 咳払いを一つ、それから口元を緩めた、田所は自らのペースに巻き込む。「協会は私の権限で取り仕切られます。副会長である真柴ルイに代わって、協会の方針を決める。つまり、私が決定権を持つ。お分かりですか、こちらの店に対して圧力をかけられるのです、私の一言で。フランス料理というのは得てして権力者たちがステータスのために文化を学んだ。どの分野にも私の発言が届き、敢行される」

「フランス料理を作る、するとあなたが登場する。そして、仕込みの作業に滞りが生じる。よって、いくら需要が見込めてもあなたの監視下を離れられるのならば、フランス料理の提供を諦めます」店長は口ごもることなく堂々と宣言をした。