コンテナガレージ

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巻き寿司の日3-4

「信じられますかね、フランス料理ですよ、世界の主要都市で食べられないことはまずありえないフランス料理ですよ、その使用を自ら禁じてしまうとは、実に惜しい。あなたには才能がある、私が認めますよ。公認です、そうですね、年会費も無料にしましょう、それと月に一度の会合も出席なさらなくて結構です。あなたは料理に店に専念してくだされば、私は大いに満足。どうでしょうか、悪くない提案だと思われませんか?」

「受け入れられません」店長はピサ釜に視線を送り、小川に作業の続きを促した。「僕にとって、他者から影響を与えられることに意味を持ちませんので。流行や教え、協力、手の取り合いを求めるのならば、店など始めていなかったでしょう。面白みにかけますから。まったく頭を働かせていなくとも仕事として成立する状況は、いずれ飽きてしまう。漫然と日々を送る、僕は適応できない」

「間違っている、あなたは」田所は厨房に上がった。「これからは一人ではないのです、手を取り合って、あなたが望む料理を作る道だって探せば見つかるでしょう。試してごらんになられましたか?いいや、食わず嫌いなだけです。私は、協会に所属して人生が一変した。私だけではない、会員すべてが自分を目指すべき先を見出せたのをどうして信じようとしないのですか」

「疑う、否定、拒否、離脱、その自由をあなたが信じるおっしゃる理論にも含まれている。ですから、私はその権利を行使している」

「正しいのです、あなたの進む道は険しくて、茨だらけ。獣道だ、いついかなる時、猛獣が襲ってくるかもしれない、山を降りるべきです。そして舗装路を車に乗ってぐるぐる回りながら峠を越えて、有意義な時間を確保しようじゃありませんか、ねえ、みなさん」

 店員の一人として田所の意見には同意しかねる表情だった。店長自身は田所の押し付けがましい教えのようにな理想の押し付けは行っていない。むしろ、放任だと言えるだろう。働く以上は店の方針に従ってもらうが、基本的な事項は料理を作る上での衛生的面や稼働時間、休憩、休日の設定ぐらいであり、その他の作業に関しては本人たちの裁量に任せている。

 昔ながらの手技を見て盗むスタイルとはまた異なる。まったく教えないのだ、こと料理に関しては。ただし、申し出には応じる。しかし、それは現在の作業工程の言葉による説明、解説でしかなく、そこに至るまでの観察を行うようにとは言っていた。すべてを言わない。考える、思考を育てることを重視する。あくまでも、料理を作るのは個人である。独立を夢見ている人材育成の目的でもないだろう。提供する料理のクオリティが常に作り手によって異なるのだ。もちろん、ディナーのメニューにおいては同じものを提供し続けるため、味の変化はお客の足を遠のける。だが、味の記憶は鋭敏な味覚や日々の積み重ねでもなく、個人が作る料理の想像性の中にだけ存在すると、店長は思っている。