コンテナガレージ

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仕事(フリーライター)、日常、小説、その他諸々

巻き寿司の日6-2

「引き抜かれた。拳銃の仕組みは知りませんが、リボルバー式ではなく、連続で弾がはじき出されるタイプの銃だと思います。撃ってはいない。そのまま懐にしまいこんだ」

 種田の透明な瞳が言葉を精査する。「後日、今日か明日にでもまた、話を伺う機会があるかもしれません。その時はご協力を」多少和らいだ印象のドアベルだったが、まだまだ食事を求めるお客が奏でる音色とはかけ離れた、耳にとげとげしく残る音であった。

 怪我の有無を店長は小川と国見に確認する、もちろんどこにも傷は負っていない。精神的なダメージを懸念した問いかけには取ってもらえなかったらしい。反対に二人から心配されたが、死を予感したのはこれが初めてではないので、取り立ててこれまでの人生を振り返ることもなく、過ぎ去った事実として、ずいぶんと放置された明日のランチの仕込みに本格的に店主は取り掛かった。

 二人の興奮は一時間ほどで話題がつき、言葉が交わされなくなる。

 ホール係の国見にはランチにおける明日からの形態を打ち合わせて、彼女を帰宅させた。タイムカードは切らずにである。厨房の小川と同時間の仕事量を彼女に与えるつもり。小川はその点に関しては、不満は漏らさなかった。厨房におけるランチのシミュレーションに余念がないのだ。

 店長は、午後九時ごろに小川に休憩を取らせた。店長もめずらしく小川と交代で十分の休憩を取る。川まで歩き、タバコを一本吸って、戻ってきただけの休憩。暗さによって川の全容は見えなかった。だけれども、流れは耳が捉えた。そこにいる、流れている、現在が視覚を取り払っても確かめられた。

「ひどい一日でしたね」サロンを几帳面に体に合わせて畳む小川が呟く。

「暇な一日が良かったの?」店長はきいた。

「少しはいつもの日常が欲しいな、とは思いましたね。なるほど、だから子どもの時は疲れて眠るんだ。情報量が多いから。むやみやらたらに動いているからだけではないんですね」

「国見さんのカードも切ってね」

「忘れませんよ」吸い込まれたカードに退出時刻が刻まれる。二枚。「店長、先輩を辞めさせたりしませんよね?」

「どうして、そう思う?」

「いや、だって、店の営業形態を変えてまでって、お店の経営が心配で。もちろん、先輩の怪我も気にしてはいますけど、店長の店ですよ、人を入れ替えるという選択を取らなかった理由はあるんですか?」

「館山さんにも言ったと思うけど、通常という形は受け入れるから取っているに過ぎない。オフィス街でお客さんが一定の時刻に食事を求める、店はその時間帯に合わせているんだ。店をひいきにするお客が一定数いたとしてたら、僕は集客が見込める時間帯をあえて避けるだろうね、そちらがデフォルトになり得るかもしれない」

「もしも私が怪我をしたら店長はディナーを止めますか?」

「どうだろう。状況によってはだね、可能性はある。ただ、小川さんはホールの仕事をこなせるから、怪我の程度、怪我の部位、働けるか、絶対安静か、それらの症状次第で、変わってくる」

「もしかして、私のことを好きだったりして、店長は」

「お疲れ様」

「はぐらかされたか」

「何かいった?」

「いいえ、別に。私の琴は隙だらけ、つまりあんまり琴の演奏がうまくないっていたんですよ」

「昭和琴?」

「しょうわごと?神様が見たいのか、ん?」

「僕、帰る準備ができたんだけど、電気を消すよ」

「ああ、ダメです、地下鉄まで一緒に歩きますから、待っててください」

 着替えを待つ時間を利用して店長は、本日二本目のタバコに火をつけた。

 半分ドアを開けて、表の通りを眺めた。