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千変万化2-7

「熊田さんにも情報は下りてこないんですか?」

「雑用みたいな部署に押し付けた案件を上層部が中途半端な場面で捜査権を剥奪するのは、大体において手柄を見込めるか、隠蔽のどちらかだろう」熊田はかすれた声で答えると、咳払いをついた。

「なんだか、腑に落ちませんね。どんよりしていますよ、胃の辺りが。ああう、あの日はクリスマスイブでしたね、災難だったろうな、樫本白瀬さん」

「大晦日、元旦に亡くなれば嘆き、平日は平凡なひとつの事件。特定の日に起きるであろう高揚感を期待させる出来事の特殊性がもたらす、平日との差異。大安に結婚式を挙げるようなもの。これまで仏に祈ったことが自らの祈りの実現を捧げるよりほかにあったのか……、拘束が楽しいのは理解に苦しむ」

「種田、今日は一段と荒れていない?」

「いつもより口数は多く、そして体内に吸い込む煙も通常よりははるかに多いでしょう」

「この一本でやめるよ」

「いえ、吸うなとは一言も言っていません。単に、私の実情を述べたまでです」

「熊田さあん、もうタバコ吸えませんよ、種田と一緒だと」鈴木は救いを求める猫なで声。

「煙草はどこでも吸える、一緒にいなければいい。今が夏だったら外で吸っている筈だ」

「逮捕するためには証拠が不十分、山遂セナは現在も上層部は泳がせているんでしょうかね……」鈴木は話題を事件に戻した。

 部長が仕入れた情報によれば、遺失物保管庫に設置された防犯カメラの不具合は調節に手間取り、また当日は積雪による一時的な停電が深夜に発生したために、電源が落ちていた時間が数十分、空白の時間が存在していたらしい。カメラ機能のチェックは地下一階のすべての部屋、廊下に及んだらしいのだ。電源は落とされたまま、処理を行っていた。要するに何の疑いもなしに現場に足を踏み入れられる人物の存在は、確認されている外部の出入り業者にまで警察の目がその当日に向いていたとは思えない、業者がシロであっても彼らが別の人間を招き入れたなら、特定は困難を極める。そもそも、遺体が盗まれる事態など上層部は微塵も想像していなかっただろう。そういった種々の事例が畳み掛け、遺体が警察署からあり得ないと言われる搬出をやってのけたとも思える、さらに警察署内の警備の甘さを警察自ら露見させたくはない、という内情も計り知れる。熊田にはかすかに情報が届いているはずだ、無知は情報を握ることによる警察内でのいわれのない処遇を受けさせないための配慮。中々、部下想いな上司を演じている。自分も見習わなければ、部長は激しく降り続いた雪の止み間の駐車場をカップを傾けつつ、横目で眺めた。