コンテナガレージ

サブスク・日常・小説の情報を発信

【マーケットキーパー】プロローグ1-1

 今のところ、店の運営は閉店に追い込まれる収支状況を回避しつつある。開業まもなくのお客の入りは大方の予測をわずかに上回る人数であり、出だしは良好な発進、と僕には映った。以前まで開業していたイタリア料理店の外観とピザの石釜が外から眺められるようなガラスの出窓が通行人の目には常に留まっていたらしく、ふらりと新規のお客が店を訪れることがしばしば見受けられた。これは、期待した予測ではない。むしろ、以前の店の味を知っているお客ならば、その味を求めて、また味の記憶を汚されないために足が遠のくのでは、という想像であった。しかし、カウンター越しあるいは、他の店員がレジの接客時に、「昔の店も良かったけれど、ここの味も悪くない」、そんな感想がもたらされる。特にイタリア料理にこだわって作ってはいない僕である。ランチは日替わり、和食から洋食、家庭料理などもラインナップに加わる。もちろん釜はピザの提供に有効利用している。

 年が明けて一月。定期的に訪れるお客は少ないが、それとは別に買い物客がわんさか歩道に寒さに耐えて列に並ぶ姿を横目に、店は三日から営業を開始した。従業員には年末、早めの二十八日から休暇の取得を打診。要望があれば、年始でも休んでいい、ということは伝えていた。ただ、人が多い時に休むのと人がいなくなった平日に休むのとではどちらが過ごしやすいか、そういった文言は付け加えていた。もちろん、選択は従業員に任せた。強制は絶対にしない。三が日を過ぎたら店は再開、確保された人数で店は開けるつもりだった。

 しかし、模範的な従業員だからか、三人の従業員は事前に提案していた休日に休暇を申請、店は年明け早々の開業となったのである。今年は例年に、という使い古された一年前、数年前の覚えてもいない記録を引き合い出した天気予報によれば、降雪が多く、平均気温も二、三度低いと予測が立てられていた。だが、日々の気分を左右する思い込みの天候の行く末など一蹴されそうなニュースが交差点の角、ファッションビルの壁面、巨大スクリーンが米の消失を嘆くよう、悲観的に、何故手を打たなかったのか、そういった感情を込めて国民に伝えていた。