コンテナガレージ

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蒸発米を諦めて3-1

 土曜日、雨天。昨夜の雲の流れは空模様の移り変わりの示唆だったと、振り返る。店長は、時間を同じく出勤。一月の四日。今日と明日でほとんどの勤め人、主にこの界隈で働くサービス業以外の人物は年始の休暇を終えることだろう。しかし、地下鉄は通常の混雑具合とは異なる絶え間ない会話で埋め尽くされた車内に耳が痛かった。店長の前後左右、地下鉄の改札口にひしめく人々の目的はショッピング、あるいは特定の人物のとの共有の時間に酔いしれる屋外への行動。まるで夕方の喧騒に類似した交錯から逃げるように地上に這い出て、店内に半ば逃げ込む形で、鍵の開いたドアを引いた。先に誰かが出勤しているらしい。

「おはようございます」館山リルカは既に着替えを済ませ、しかもコックコートに料理のシミがついていた。数分前に到着した様子ではないらしい。店長は軽く挨拶を返して、ロッカーで着替えた。時刻は開店の二時間前である、通常従業員に言い渡す出勤時間は開店の一時間前。彼女は二時間よりもさらに前に店で作業していたことになる。彼女たち、従業員には店長がそれぞれ店の鍵を手渡していた。売上金の持ち逃げ等の曲解を彼は持ち合わせていない。信頼関係を多分に重視した経営でもなく、彼女たちは金銭を上回る対象の獲得に忙しいので、短絡的な誘惑には見向きもしないのだ。また、初めにいつでも取り出せる状況を見せ付けておくことで、金銭の引き出しにためらいを生じさせる意味合いも込めていた、店長である。

「ランチの味見を先にしてしまいました、すいません」サロンを巻く店長に館山は、行動の後悔よりも断りを得ない行動を謝るように言った。

「どうだった?」

「私の発言がランチの味に反映されるのでしょうか」薄茶色の瞳の圧迫が増す、館山は一歩こちらに躍り出る。