「お客の対応に時間を割かれたら、レジと料理の運び、食器の運搬にまで手が回らないかもしれません」
「それらの対策を何か考えた?僕は君にホールの権限を譲渡していると前に話していたね、それは何も、現状を維持するということではないんだ。必要なら変化も厭わない、お客も季節も移り変わる、今日は二度と来ない、似ている客層で昨日のような寒さかもしれない、しかし、まったく同じではないということは肝に銘じておくべきだね」
「すいません」普段口数の少ない店長の叱責は実に効果的に機能する。「考えて、何も考えていなかったのではありません。……正直に言うと、ライスの提供を事前に断る労力とお客の曇った表情を見たくなかったのです」
店内が静まる。
「外の黒板にライスの提供中止の文言を書いてみようか」
「店長って、寛大ですね」小川がわざとらしくつぶやいた。
「ばか」小声で館山が小川の発言を叱る。
「また、バカって。リルカさん、口が悪いですよ、性格も」
「最後の言葉は余計だ」
「お米は昨日と同様の価格で販売します。しますが、二つだけあなたに守っていただきたい約束を私と交わすのが、販売を許可する条件です」
「普通は一つだけですよね」また小川がささやく。
「何でもききます、断る理由がありませんもの」女性がしがみつくように表情を緩ませる。
「それは良かった。簡単な約束です。今後一切この店にお米を貰いに訪れないこと、それに催促やお礼の連絡も不要です」
「はい、それはもう、まったく問題ありません。守れます」早く米をくれ、早く、女性は既に店長の話が耳から耳に抜けていっているようだ。
「小川さん、申し訳ないけれど、倉庫からお米を持ってきてあげて」
「は……い、あのう、私が意見するのは、どうかと思うんですけど、お米は売らない方がいいのではないでしょうか?」