「メニューに取り入れてはもらえませんかね、とうもろこしの粉を」男は座りなおして、切り出した。店主は釜で焼く効率性とフライパンの正確な形を天秤にかける。
「……何か言いましたか?」
「とうもろこしの粉を使った料理をランチといわず、メニューにのせる案をどうかご検討してくださいませんかね?」男の顔に赤みが差す。
「お約束はできかねます」
「では、試しに粉を置いていきますので、お好きなように使ってください」
「また反応を聞きに店を訪れるのですか?」
「お邪魔ですか?」
「頂いた粉はまだ残されています、偶然にも今日のランチでとうもろこしの粉を使う予定です」
「ほう、それはまた、なんと。いやあ、いい日に足を運んで正解」男はコーヒーを飲み干す。タバコの煙が宙に漂う。外の明かりが弱まり、また回復。雲に隠れたようだ。店主も忘れた煙草を咥える。
「話が以上でなら、私はこれで。仕事がありますので」
「小麦の評価はアレルギーの発症に伴い、消費者は統一した肯定的な意見に不安を示す。一方、評価の上がる大豆は栄養素と植物性の蛋白源に摂取に特化した、好意的な評価を得てはいるが、数日前にアレルギー症状を発症した幼児に死亡がニュースで報道された」
「とうもろこしの粉もいずれは、何らかの身体的異常を誘発します。確実に」
「根拠は?」煙草を灰皿に押し付ける男は、まっとうな答えを跳ね除ける笑みで尋ねた。
「少量、多量に問わず、長期間の摂取が体内に取り入れた物資の居座りを認めるか、否か。単純な結果です。物事を複雑に考えすぎている、だから理解に及ばない。穀物の栽培は、不規則で、天候不順が引き起こす別種の食料確保と摂取の移行を妨げる要素になりえた。決まった食料を確保ができないために、健康が維持されたと言い換えてもいいでしょう。白米の流行にも病気はついてまわり、小麦ではアレルギーが発生、大豆も然り。潤沢に確保を許された食料の摂取には、それらを補う食料を合わせる、組み合わせ、食べあわせが栄養学で算出された。これも、単一の食料の摂取が希少だった頃には、生じなかった事例」
「貴重な意見を頂戴いたしました。感服です。良く勉強されていらっしゃる」
「いいえ、なにも。最近の事情はまったく知りません。新聞もニュースもほとんど見ないので」
「ご謙遜を」バッグを持ち上げる男はとうもろこしの紙パックを二つ、そのほか、豆の粒も一袋テーブルに置く。「これは、以前のとうもろこしとは品種が異なるので、ぜひ試してから判断をしていただくと、大変助かります」定期的な使用を見込んだ売り込み。最初からそういえばいいのに、もったいぶる時間が無駄。
「検討します」
「ありがとうございます」
「決定ではありませんし、私から使用不使用の連絡は入れない」
「また伺っても?」
「開店前の忙しい時刻に姿を見せないのであれば」