コンテナガレージ

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抑え方と取られ方 2-5

「見せ掛けかもしれません」

「個人的な恨みですかね」

「どれも事件は個人的です」

「引き続き捜査をお願いできますか?」

「他に事件が起きなければ、体は空いていますので、彼女を離れる際は一報を入れます」

「そうですか。では」

「では」

 従業員たちは店主の電話の相手に気を利かせたのか、もしくは好奇心を押さえつけたのか、詮索することを躊躇ったようである。店主にとっては嘘をつく手間が省けたのは幸い。襲撃は国を巻き込む壮大な操りか……。食を動かせば、街が動き、それらが全体に波及的な効果、国に跳ね返って、経済が働く。システムは全体と個が大まかにひとつ。鎖のように、連結部は細い。出入り口が様変わりするのであれば、うん、流れは自然と影響されるはず。

 店長は、台頭著しいとうもろこしの重要性を集めた資料の読み込みに睡眠時間を数時間削り、情報を獲得していた。とうもろこし生産の拠点は北海道、それもある一部の地域、夏季の高温、乾燥、日暮れの低温が繰り返される過酷な盆地に限定的に生産が続く。主に出荷用ではなく、また食用として売り出されることもない。各家庭が冬季間の食料に収穫後、天日に干し乾燥させた保存食としての興りであった。しかし、数十年前から生の状態で市場への出荷が始まる。それは、品種の改良が生産性を飛躍的に向上させた影響による。弱乾燥性、粒の大きさ、病気への耐性、味を地域の気候に合わせたらしい。もともと過酷な土地で育つ作物である、世界の生産拠点である南米と比べると気候はかなり穏やかで、成育はあまり芳しくなかった。それでも乾燥させた粒は水に戻すか、粉状にすりおろす状態から水を加えて火を通して食べるので、不ぞろいな形状であってもなんら問題は生じない。さらに、収穫量も食料の普及により冬を越すための食料としての重要性は低下の一途を辿ったため、生産者のとうもろこしへの重要度は低くともバランスは取れていた。

 ただし、生産性の向上にシフトを変えた品種改良の転換点が資料のどこにも載っていない。いつ誰が起こしたのかさえも、情報は未確認。もし仮に、現状、つまり米や小麦などの主食級の食物の高騰は、意図され仕組まれた現実だとすれば、転換点の情報欠如も説明がついてしまう。ようするに、国を巻き込む経済操作が行われていると換言できるのだ。だから、食料品の輸出入税制の開放にしても、米の価値を高めるため、あるいは海外の安価な小麦を手に入れるための事前打ち合わせの結果かもしれないのだ。大豆の高騰は誤算かもしれないし、また陰で笑っている者がいるかもしれない。