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抑え方と取られ方 3-3

「そうやって料理も教えるんだ?」馬鹿にしたような言い方。おちょくっている、あるいは、神経をさかなでる効果を狙ったのだろう。しかし、店主は動じないどころか、仕掛けから相手の傾向を探る。

「五分に設定しました、これ以後は回答を拒否します」

「もう、せっかちな人は嫌われますよ。まったくう。しょうがない、早起きが報われると思ったのにな。なんでもないこっちの話」彼女は咳払い。「小麦をね、これまで以上にこの店で使って欲しいの。いいや、使えっていう命令かな。使用許可を私たちが認めるのは、前例のないことよ。要するに、名誉っていう話。使いたいだけ使えるよう生産業者は手配してあるから、お望みならいつでもどれだけでもたんまり使っていいから。あと言い忘れたことは、うんと、そうそう大豆は決して使用しないことを、これ絶対だから。約束。破ったら、たぶんに二度と包丁は握れないかもね、うふふふふ」

「強制ですね。約束ではない。戒律に近い規律。入信したら抜け出せない掟。一つ、わからないことがあります」店主は質問をした。

「なんですか?」

「この店にこだわる理由を教えてください」

「地下鉄の駅まで数分、ビル街の真っ只中、周辺はビルと買い物客、洗練された行き交う人、ステータス、一人でも入れる外観、チェーン店にない古めかしい感じ、何より食事がおいしい、店主があなた、ランチが人気で噂、行列、雑誌には載らない店。これらは、整理された情報とは異なる、お客が足を運び、直に確かめたくなる要素が盛り込んである。つまり、情報の発進拠点に選ばれたっていうことよ。思ったより鈍感ね」石ころを蹴る足の空振り、彼女は入り口でつま先をこちらに差し出した。

 彼女の話を補うとすれば、小麦はまだまだ主要な穀物に選ばれていないと、換言できる。米や大豆に勝ると自負するなら、情報操作は不必要。また、彼女は勘違いをしている。店を訪れるお客はほぼ常連が締めている、曜日によって人間が異なるだけで、列に並ぶのは大抵が一度見た顔だ。もちろん、話もしていなければ、名刺ももらっていない、自己紹介もされない、相手の氏名は不明、ただし顔は覚えてる。