コンテナガレージ

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抑え方と取られ方 3-4

「小麦のみのメニュー変更が果たして有効な手段でしょうか。私にはそうは思えない」店主は、首を振って彼女の意見をはねつけた。

「今後は小麦が穀物の王様になる。米は、特定の層にだけそのために作られるわ。農家の囲い込みはもうじき終わるんじゃない。永続的に特定の企業や媒体と取引。企業は自分たちでは作らないでしょうね、売れる分だけに見合う作付面積が確保できれば、問題がないもの」日本の土地、米の農作に適した土地は、温暖化による気候変動にしたがって、米の産地が段々と北に移動している。現在は北海道の南部、本州北部が最適。今後を見込んだ予測は、さらに北の地域が長期の栽培を可能にするとされ、企業がいち早く土地を買い占めて農地と作付け人、耕作人を含む農家も囲いこんだというのか。だとすれば、土地は米と小麦それに大豆と一部地域のとうもろこしで占拠。給田も休みなく、稼動を余儀なくされ、無論空いた土地は必ず今後、作物の栽培に取り掛かる。

「小麦のみの使用で商売を続けると、集客は落ちるでしょうね」

「何を根拠に?ありえないわ。求めている穀物を、世間の需要を満たして、お客が来ないって。冗談が下手ね」彼女は片目を瞑った、どういった意味であるかは、受け取り手の人間性に任せるのに、たった今意見を否定した人物に投げつけるとは、無謀にもほどがある。

「いいえ、紛れている、だから貴重なのです。選択を箱にひしめくダイヤモンドを前に、人は必ず迷います」

「片っ端から手にとって購入すればいい」

「なけなしのお金で?」

「小麦とダイヤにどれだけ価格の差があると思っているの?」

「大きさや輝き、形、色合い、比べる要素というのは、至極限られた対比。似通った鉱物もあるでしょう。私は専門化でもありませんし、鉱物の細かな粒子を見極める拡大鏡はなんて物もありません。しかし、他のメニューに紛れた小麦ならば、見つけることができ、小麦以外の料理も一緒に堪能することで、それらの違いは口に入れて言葉に言い換えなくとも、味覚が教える」

「頑固ねえ、あなたも」

「そっくり、その言葉をお返しします」

「あら、うん?」彼女は首を振った拍子にドアに向き直り、動きを止めた。じっと、ドアを見つめている。ここからは彼女の体が死角となり、対象物は未確認である。

「何かしら」彼女の手、一枚の紙がひらめく。呼び寄せる合図のように、パタパタと紙を操る。一見して普通の紙にしか見えない。「ドアに挟まっていたわ。ええと、何々……」店への伝達物を彼女は勝手に読み始めてしまう。あまりにも突飛な行動。しかし、制する暇もなかった。