コンテナガレージ

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静謐なダークホース 2-6

「もらうのが嬉しい。自分で買っても味気ないですよ。それがプレゼントの持ち味って言うのか、うーん、本質?ですよ」半ば怒ったようにそれでも口調は柔らかく、尖ったはずの言葉の先端は丸く、面が取れてる。

「店長が食べもてもいいって許可が下りたら、食べるでしょうに」

「それはだって、せっかくのご好意ですもん、遠慮したら店長に悪いですからね。勧められたら甘んじて受け入れる、常識ですよ、世間で生き抜くための。私みたいな新人には必要なサバイバルの知恵ですよ」

 得意気に小川は回答するも、表情の見えない彼女の重たい視線を店主はうすうす感じている。彼女が見つめる僕、その先のチョコ。ランチで交わした彼女はうらやましさをとっくに通り越す口に広がる苦味、甘さ、ナッツや胡桃の食感、口に運ぶ前の形状と色見を見据えていたのだ、かすかな現在の沈黙を、店主はそのように解釈する。

「そういえば、例の表の二人って、列に並んでたんでしょう?」国見がきいた。「チョコレートを渡してくれって、頼んだの?」

 パチンと小川が手を叩いて、飛び出すように立ち上がる。「ぬかりありません。毒は入っていないと思いますけど、手作りだったら髪の毛とか爪とか煎じて混ぜてる可能性があります。ですから、目印を付けておきましたよ。多分、最初の方なので、冷凍庫に入れた方ですね」とってきましょうか、という小川の行動を、店主は制し、冷えた包装紙の新鮮な感触を指に覚えて、胸に抱えるよう、また他のチョコと混ざらないように、それらの塊をごろごろ、そっと調理台に置いた。

「リボンに縦に折り目を入れておいたやつです、たしかマットなゴールド……」厨房に入った小川が指を指す。「それと、黒いリボンで平たい、ああ、それそれ」店主が重なりをどけると、小川の声の高まりで目的物を発見。豊かに眉が広がり、目が見開き閉じて、頬は上がりっぱなし、口元は小さく、近づくと広がる。まるで探査機のような声だと、店主は思った。

「私があけましょうか?危ないかもしれない、びっくり箱みたいに飛び出してくるかもですよ」上目遣い、商品をねだる子供の眼差しで小川が哀願する。

「いいよ」店主は快く、願いに応じた態度。特に、誰があけても中身が変るわけではない。差し上げた人物は店主にあけて欲しいのだけれど、渡した時点その権利は剥奪、相手へ移る。非情で心中を想い計らない、言動とは思わない。むしろ、要求がすべて通る勘違いをまずは正すべきだと、店主は常々プレゼントに対して感じている。

「じゃあ、あけますよ。どきどき、そわそわ、わくわく」