コンテナガレージ

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静謐なダークホース 2-7

「いいから早く開けなって」館山も箱が見える位置に近寄る。

「えいっつとう、うーん、これって……バレンタインの贈り物?」

 上蓋の次に三人を襲ったのは、球状の塊、四つであった。

「惑星を模したチョコレートなら見たことがあるけど」館山は眉間にしわ寄せて唸る。「どう見ても、角度を変えても、木だなあ。木目もある」

「店長、手に取ってみてもいいですか?」小川が同意を要求する。店主は軽く顎を引き、彼女の行動に許可を与えた。

「あっ、固い。でも、弾力がありますよ。これ、木じゃないかも」

「どっちだよ」館山がいう。

 こげ茶色で側面が波を打つ球状の物体は、周りを汚さないためか、もしくは区切った枠内の真ん中にとどめておきたい狙いなのか、弁当の味の移りを予防するための銀紙の色がそれぞれ異なり、光を跳ね返す艶の紙に収まっている。

 小川は果敢に、匂いをかいだ。鼻に近づける。「チョコですね。私、食べましょうか?」

「大丈夫か、おまえ?」

「こう見えてもおなかは強靭な方で、牛乳を飲んでもゴロゴロいいません」

「あれは、体内酵素の有無で決まっているんだよ」

「へえ、そうなんですか。いただきまーす」半分を小川はかじった。彼女の視線がさまよう。「……うん、これは、はい、普通の栄養補助食品ですね、チョコ味の」

「固形物で短時間で栄養をチャージするっていう、あの?」

「味はまさしくチョコです、若干もさもさっと水分を奪う食感も、でも、嫌いじゃありません。なんだろう、クッキーとスポンジの中間、ちょうど間ぐらい。先輩も食べてみます、いいですよね店長?」

「どうぞ」

「もう少し様子を見る」館山は慎重に場を見計らう。館山はあまり、突飛な行動には出ない。オーソドックスが基本、忠実に情勢を守る性質。しかし、なぜか、彼女の本質は守りを固めるほどににじみ出る隠した本心を店主は感じ取ってしまう。自分が似た存在で、過去の経験が親近感を強めるのか、店主は彼女を通した自分を見つけた。これではまったく同じではないか、ここに並ぶ包装紙の提供者と。

 しかし、ただ違いを言うのなら、僕は過去を、提供者は未来を覗いている。

「手紙ですね」試食を回避する館山が、蓋の裏に張り付く折りたたまれた紙を偶然に目にする。

 そこにはこう記されていた。

 

 たんぱく質、糖質、カルシウム、ビタミン、ミネラル、カロリー、脂質、炭水化物に必須アミノ酸を配合した食品。

 お店を休まれないあなたには食事で栄養をしっかり補う必要があります。

 一日一つを召し上がれ。組織は修復、再生、活動。

 <使用上の注意>

 良くても悪くても口に入れたら最後、噛んで飲み込むこと。

 また、当人以外の摂取は人体に危険が及ぶために止めて下さい。

 摂取は空腹時が最適。

 深夜、寝る前の摂取は控えること。

 目がさえて眠れない場合があります。

 ご使用には私の言葉をよくよく噛み砕いた上の摂取が有効的な効果を発揮します。また、症状の改善が見られない場合は、下記の場所へ。

 初手 清純派