コンテナガレージ

サブスク・日常・小説の情報を発信

静謐なダークホース 2-5

 勘違いをさせる振る舞いは、神に誓い、舌を切り落としても良い、思わせぶりな態度は見せてはいない。僕は一貫して、教室内の人物、教師を含む人間には興味を持った記憶は正確に呼び起こしても見つからない。見つけようがない。

 記憶は鮮明、劣化などしない。保存が利くのだ。そう、塩のきいた保存食のように。乾燥。からから。

 哀れに見えたのかも。

 だから手を差し伸べたくなった。

 自分も救われると勘違いして、救われるのは自分なのに。

 言い換え、換言、代替、転用。

 視界の色を一色取り除く。明度も感度も彩度も落ちる。しかし、対象物はより鮮明に内部に潜む形のありかをありありと見せる。だから、動物は色を好まなかったのかも。言葉を選ばなかったのかも。地下でつながりあえるから。

 ここは、それとは異質の、明るすぎる鏡を見ないと、見えない纏った色。

 壊れそうな気持ちがストッパー。押し出したパッドの効力を維持。ディスクの回転数が落ちていく。

 きらびやかな包装紙は、無機質な冷凍庫へ躊躇することなく、店主は手に取り、一番奥、食材の邪魔にならない位置に押し込んだ。ただ、その後、小川が戻る度、ピザを入れる容器から次々に数分前に視覚に納めた形状の物体が厨房に運ばれ、仕舞いには冷凍庫へも送られずに、調理台に積まれていった。

 とうとう、ピザの有効な利用法は、ランチ終了まで思いつかなかった。また、表にいた怪しい二人もいつの間にか、そういった雑多な出来事にかまけている最中に、危険である、危害を加えるといった、心配の作用も消えて、胸中を支配するのは、届けられた店主への大量の包みであった。風で閉めようとするドアと格闘しながら、屋外で接客を担当した国見が店内に戻る、頬に赤みが差し、蒼白さ、陶器のような白さが目立った。気を利かせた館山が国見と小川にコーヒーを差し出す。

 それでも国見はお礼を告げてもなお、立って口に含むと、レジで売り上げの精算に取り掛かった。カウンターでは優雅に小川が、チョコレートの包みを半開きの口、半眼で見つめる。

「安佐、気持ち悪い。食べたいんなら、自分で買ってきな」几帳面に、ポケットから取り出すタオル状の起毛が立つ、パイル生地のハンカチで額と首もとの汗をふき取る館山が注意する。彼女の位置と角度からちょうど、カウンター席の末端に座る小川の姿が確認できるが、店主が立つシンクのあたりは、重なるよりも積まれた食器、主に皿によって小川は隠れている。