「薬の注意書きを意識して書いたんでしょうね」店主の手元を覗く館山は、口元に手を当てる。「すいません、勝手に見て」
「いいよ。文章は誰かに見られる前提」
「私に見せてください」爛々と輝かせる瞳で小川が見つめる。店主は向きを変えて紙を渡す。「へえ、この時代に手紙ですか。そうか、この方が効力はありそうですね、ありきたりだけど、相手はどちらかに転ぶ」
「イエスかノーってこと?」館山が横目できいた。
「重たいと感じるか、それとも紙に書いて物質として残る状態を愛情と受け止めるか。メールやネット上でのやり取りには、存在しない、この、なんというか、無駄な手間暇は、あわよくば、捨て身に人の背中を押す」
「日常だからでしょうよ」国見が両手を組んで伸びの姿勢、彼女は小川の隣に立った。
小川が彼女の頬の辺りを見て言った。「かつては手紙が主流、そして電話に取って代わり、今ではネットですもんね」
「紙によるDMも全盛期に比べるとかなり量が減ったみたい、新聞で読んだけど、手紙の類はそもそも自宅の住所が連絡の取れる唯一の場所という概念、これってもしかしたら、もうかなり遅れているのよ。一人暮らしも増えて、しかも誰もが連絡の取れるツールを持ち歩く」
「蘭さん、話が飛んでますよ」
「そう」国見は話の腰を折られても平静を保つ、感情処理の回路は一旦停止の状態で格納されたのだ。繋ぎ合わせた編集の映像のように、動きがずれた。彼女は店主に進言した。「店長、先に休憩をいただいてもよろしいですか?」
「何か用事?」
「いえ、そういうわけでは……」
「詮索はしない。どうぞ」
「すいません」
「謝ることではないよ。そうだ」店主は三人へ流れる視線を送った。「平日の時間帯、休憩時間よりも早くに用事を片付けなければならない人は、時間が必要であれば、調整は可能だよ」
「どうしたんですか、突然」
「休日が日曜だから、生活面に関する事務手続きは週末には対応されないことが大部分、気になったので言ってみたのさ」
「そういう、店長こそ、休憩は必要です」
「手続きは、代理の人に頼んである」
「そうじゃなくって、体を休めるほうの休憩です」
「ああ、そっち。まあ、でも、疲れても立っていれば休まる」
「だから、こんな栄養ドリンクみたいなチョコをあげたくなるんですよ」