コンテナガレージ

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独自追求1-1

 夏休みの中盤、二曲が完成した。最初の一曲は歌詞を先に書いてその後にメロディをつけた。二曲目はその反対でメロディを先に歌詞を後に創作した。どちらがやりやすかったといえば、前者のほうである。しかし、歌詞にメロディを合わせようとするために数箇所は窮屈を強いられるハメになって、変更を余儀なくされた。あまり好みのリズムとは言いがたいが、完成にこぎつけた。かたや二曲目は、歌詞の変更は言い直すことが可能なので少ない語彙力でも歌詞の意味を変えることなく作り上げたと自負している。でも、やはりどちらもインパクトにはかける。一長一短でいいとこ取りとはいかないようだ。次は同時に創作してみようと思っていた八月の第二週であった。

 その日、大学に行く用事ができた。用事とは表向きで暇な友人に無理に誘われたのだ、母親に行き先を聞かれ咄嗟に出たのが用事という言葉だった。もちろん誘いは断った。だが、どうしてもとしつこいので断りきれなかった。友人との食事と聞いていたが、おそらくは面識のない人がパートナーを探すための出会いの会だろう。しかも、昼の二時からどこに行こうというのか。乗り気はしない。夏休み期間の通学定期の使用で定期代の元が取れそう、これぐらいしか利益は思いつかなかった。

 空はえらく青々として水平線との境目にみたいに切れ目も遮りもなかった。地下鉄を出て校舎へ向かう建物の隙間からの眺めであった。

 屋内、重たい扉を引く。このドアはいつも開けるたびに押すのかそれとも引くのかの選択で迷い、結局は空間が広い側にドアが開くのだと思い出して引いてしまう。ただし、中から誰かが引っ張っているみたい。圧力の関係かもしれない。時にドアが急速に閉まる場面を目撃していた。ドアの向かいには中庭に通じるドアがある。そちらとの兼ね合い、タイミングが合わさると生じる現象なのだろうか。検討してもドアは重い。

 食堂と購買の手前側のテーブルで呼び止められた。

 「ロサ、こっちこっち」手首がなめらかに可動、江渡杏が手を振る。黒のタンクトップに太腿むき出しのホットパンツと歩行には不向きな足元。彼女は友人とは言いがたいが、付き合いのある大学で唯一の人物である。入学当初から現在に至るまでに私の周囲の人間は彼女が最後の生き残り、だんだんとほかの者とは疎遠になっていった。こちらが望んでいるため、私は悲しさも虚しさもまるで感じない。むしろ、身軽になって清々している。