コンテナガレージ

仕事(フリーライター)、日常、小説、その他諸々

店長はアイス  死体は痛い?8

 立体駐車場の七階、平均的なビルの七階よりも高く感じる。鈴木は前後左右を、車から降りる前に確認、先にドアを盾に前方からの射撃に備える。備える?誰に狙われているのかさえ、皆目検討がつかない。二件の死体が確実に関連を匂わせてる、それは揺ぎ無い事実だろう。これ以外鈴木のみに危険が及ぶ事態は考えても、知り合いに紹介してもらった女性に返答のない、メールを送り続けていることぐらいだろう。これだって、命の危険が肌で感じる殺意を相手が抱くとは思えない。数日前に送ったメールはアドレスの変更により、送り返されたのだ。

 エレベータは螺旋の上り坂を登った先、フロアの正面奥の左手。フロアの広さはざっと二十×五十メートル。運がいいのか、それとも敵方が仕掛けた罠か、エレベーターにもっとも近い三列中央の駐車場所がぽつんと空いている。左隣が背の高いワンボックス、前と左斜め前は乗用車、右、後方側が周回路。鈴木は相田に囁く。

「大丈夫みたいですよ、僕が、エレベーターのボタンを押してきますんで、相田さんはドアが開いたら走ってください」

「何を考えてるのか、教えろよ」

「いいから、僕を信じてください。いきますよ」鈴木は、律儀にドアを閉めて、走り出した。格好は無骨で腰を屈めて無防備、遮蔽物のない、矢印と横断の白線が描かれた地面を通過、黄色いドアのエレベータに行き着く。壁に張り付き、できるだけ動きを止める、階下を指す矢印のボタンが光る。運転席、ドア越しの相田が表示階の数字を目で追う。

「今です!急いで!」到着音、と同時に相田が勢い良く車から飛び出す、鈴木は相田の後に光が差し込む箱になだれ込んだ。相田が一階のボタンを連打。

「ダメですよ、二回押したら、消えちゃうんです」

「知るかそんなこと」相田の息が上がっている。ドアが閉まる寸前までフロアの状況は動くものさえ確認できなかった。取り越し苦労だろうか、鈴木は重力を感じつつ考察した。計ったように相田が呼吸の切れ間に言う。「ドアに弾痕があった、車が撃たれたのは事実らしい」

「犯人でしょうか?」鈴木はきいた。

「部長かもな、はぁはぁ」緊迫した状況下での笑い。相田は冷静さを保っている。

「二つの事件を引き起こしたのが部長だなんて、……ありえないこともないか」鈴木は壁に背を預けて呟いた。

「何をしでかしても、あの人なら驚かない」

 地下道を西に進む。冷涼な空気の源は日差しの遮断と人の少なさに起因する。南北に繋がる、巨大な歩行空間。地下通路は左側通行の人の流れが出来上がっているとはいえ、横切るのには不向きだ。なんとか古い地下鉄の通路に復帰。逃走経路をなぞる。もう逃げ切っただろうか、するとこうして徒歩で追っていても追跡は無意味だ。では、どうしてか。顔見知りだからか。歩きながら、前の女性を避ける。床、タイルの冷たさが恋しい。一旦引いた汗はまたぶり返してきた。耳につけたイヤホンを装着する。コードの先には小型の無線機。階段を上って感度を確かめる。太陽が襲う。車が吐き出した熱がさらに暑さを駆り立てる。

 途切れ途切れの音声が聞こえる。「CUBEだ、立体駐車場。立体駐車場」

「四名が到着。指示を待つ。四名が到着」

「先着隊は、出入り口を押さえろ」

「了解」

「後方隊は車両で乗り込み、各フロアを下から押さえろ。上に追い詰めるんだ」

「ターゲットの位置は?」

「最上階だ。先着隊、ターゲットの姿は?」

「外には出ていません」

「ターゲット補足に全力を挙げる」

「了解」

 逃げ切れるのか?手を貸すべきか?無線を切った。これが情というものらしい。曖昧な感情だ。受け入れたら最後、身を滅ぼす禁断の蜜。昔から備わっていたんだろうか。物心がついた時に既にそれらは不必要と見限っていた。つまりは、受け入れて即座に手離した。合わないのだ。一箇所に留まることも、同じもの敬愛することも、愛することも。いつかは、離れる。離れるからと出会いの場面で宣言してきた。これが真実。汚れを嫌っているのではない。醜い己との向き合いを拒んでいるわけでもないのだ。知っていることのそれがすべてであるとはどうしてもいいきれない。塗り替えて、真新しさで現実と対面するともう近くのそれはまったく興味をもてなくなって、道端の石ころみたいな扱いしかできなくってしまう恐れが多分にあるのだ。こうしてふらりと一人で生きているのは私にとっては何よりも代えがたい空間で、環境。これを取り去るわけにはいかない。

 あいつらならば、切り抜けるだろう。それも安穏な考えか。助けに行かない奴が何を言ったって言い訳。ならば、忘れることだ。綺麗に、その事実から。無関係だと。

 上った階段を降りる。滑り止めの緑のゴム。階段の途中で振り返り、下も見た。人気がない事を確認して、無線機を落とし踏みつける。屈んで楽器ケースを肩に掛け直す。取り出したビニール袋に段差を利用、掃くように手で粉々の機器を落とし入れた。地下に降りる。来た道を戻り、人の流れに乗り込んで今度は流れに乗った。地下鉄の改札前で、袋をゴミ箱に。燃えないゴミに押し込んだ。

 改札をICカードで抜けた直後、携帯を開くふりで後方に目を配った。追跡はされてない事を確認し、階段を降りて車両に乗り込んだ。