コンテナガレージ

サブスク・日常・小説の情報を発信

不躾だった私を、どうか許してくださいませ5-9

「形態の基本は実演販売、お客さんに作業工程を見せる、これがコンセプトです」

「契約を結んでいない私に内情を知らせるのは、僕をおとす自信から来るものですか、それとも……」

「近隣の商業ビルへは事前に情報が漏れる算段をこちらは取るつもりですよ」

「セオリーに反する気がします」後ろのお客が押し込む、ベンチの存在を感知していない更に後ろお客が前に進みたがっている。しかし、まだ前のお客の後ろに立つことは許されない、ベンチを塞いでしまう。

「私はね、あなたのそういった感度の良さを高く評価したのですよ」宇木林は舞台俳優のごとく、肩を左右に広げた、左手にかろうじてぶら下がる紙袋が、ビル風に晒される。「いずれ情報は明るみになる。ライバルのビルや商業施設は対策を講じるでしょう。一時的な対応とはしかし、守勢に回ったが最後、攻撃には決して転じることはできない」

 言わんとすることは大よそ理解できる。が、金光は奥深い裏側を推測する。極端な違いを商業ビルに見出したためしはこれまであっただろうか。過去を振り返る。やはり多大なインパクトが刻まれるのは、開店・開業であるか。新装開店も大いに盛り上がりをみせることはあったが、しかし、目当ての店やお買い得な商品があってこその、引付けであり、それはお客が各自足を運ぶ、自主的な買い物に駆り立てる気分とは、別種であるように思う。

 移動を求められた、宇木林が先にベンチを越える。僕は後方に軽く会釈をして、進んだ。自らを卑下した行動とは思わない。この先の数時間を近距離で過ごすのだ。

 つま先をそろえて、今度はこちらから話題を振った。

「ブルー・ウィステリアの行列が工事に影響するように思うけれどなあ」僕は呟く、いただいたコーヒーを一口傾ける。熱さが口腔内全域を襲った、喉がひくつき、食道の入り口付近がくっきりと形を主張する。「あっつ」

「ああ、これはいけない、もしかしてネコ舌ですかな?」